アズマイチゲ (東一華)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

アズマイチゲ (東一華) キンポウゲ科イチリンソウ属
学名:Anemone raddeana

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■特徴・分布・生育環境
草丈15〜20cmほどの小さな多年草です。

春早くに、茎を1本立て、茎頂に三枚の小葉(三出複葉)からなる3枚の葉を輪生状につけ、その中心から花茎を1本ほぼ直立させます。

花は、径2〜3cmほどで1輪をつけます。
花被片(ガク片で花弁はない)は8〜13枚で白色です。
しばしば花被片の裏側が淡紫色になります。

根生葉(地際の葉)は多くの場合、花時にはありません。
落葉樹の疎林〜半日陰になる林縁に生育します。石灰岩地を好みます。

花や草姿は、キクザキイチゲに似ていますが、キクザキイチゲの茎葉は羽状に細かく裂れ込んでいます。
アズマイチゲでは小葉は僅かに裂れこんでいるだけです。
なによりも、アズマイチゲの茎葉は下方に垂れ気味になることが特徴です。

早春に芽を出し、春早くに花をつけ結実させて、初夏には地上から姿を消します。
いわゆるスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれる1群の植物のひとつです。
春の一瞬にだけ地上に現れて可憐な花をつけるので「春の妖精」です。

学名(属名)の「Anemone」から判りますように園芸栽培されるアネモネの仲間です。
  
日本各地、朝鮮半島〜ウスリー地方の温帯に広く分布します。
多摩丘陵では、1980年頃以降は自生は確認できていません。
1980年頃以前には自生していた可能性があります。

■名前の由来
1本の花茎の茎頂にひとつだけ花をつけるので「イチゲ(一華)」です。東日本に自生するという意味で「東(あずま)」ですが、日本各地に自生します。
ただし、同じように茎を1本だけ立てて花を一輪だけつけるのは本種だけでなく後述する「イチリンソウ」や「キクザキイチゲ」など多くあります。

■文化的背景・利用
当サイトでは、これまで「万葉集やその後の多くの歌集や句集などには、知られた詩歌はないようです」と記載しておりましたが、
大正〜昭和にかけて多くの歌集を編んでいる土屋文明の短歌に「東一華」が詠われていることを2018年に始めて知りました。
太平洋戦争の末期に東京青山から群馬県に疎開していた時期の歌集「山下水」に

「にんじん(人参)は
      明日(あす)蒔(ま)けばよし 帰らむよ
          東一華(あずまいちげ)の 花も閉ざしぬ」

として「アズマイチゲ」が詠われています。アズマイチゲの花は日没後には閉じて翌朝にまた開く様子が詠われています。

他の知られた本草書などにはその名では現れていないようです。

■食・毒・薬
キンポウゲ科の植物は、ほぼ全てが有毒です。
ただ、後述するニリンソウの新葉は、僅かに毒成分を含みますが火を通せば毒性はなくなり、美味しい山菜として食べられます。
ただし、猛毒のトリカブトの仲間の葉によく似ているので注意が必要です。

■似たものとの区別・見分け方
仲間(同属)に、以下のようにニリンソウ、イチリンソウ、キクザキイチゲやシュウメイギクなどがあります。

草姿が似たニリンソウは茎葉の裂れ込みが少ないこと、花径も2cmくらいと小さく花被片は5〜7枚で、何よりも花を通常二つつけることで容易に区別できます。

同じく草姿や葉が似ているイチリンソウでは、茎葉が細かく裂れ込み、花被片(ガク片)の数が5〜6枚程度で、花被片が8〜13枚程度と多いアズマイチゲやキクザキイチゲとは容易に区別できます。

また、このアズマイチゲは上述のようにキクザキイチゲに似ていますが、アズマイチゲでは葉に細かい切れ込みがなく、茎葉が下方に垂れ気味になることで区別できます。

多くの園芸品種が作出されているシュウメイギクは、古い時代に渡来した外来種とする説が多いようですが、多摩丘陵では、時々半野生化しています。    
  
写真は「花と茎葉」の1枚を掲載
アズマイチゲ
アズマイチゲの花と茎葉