キクザキイチゲ (菊咲一華)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

キクザキイチゲ (菊咲一華) キンポウゲ科イチリンソウ属
学名:Anemone pseudoaltaica

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■特徴・分布・生育環境
草丈20〜25cmほどの小さな多年草です。
落葉樹の疎林や半日陰になる林縁に生育します。

茎を1本立て茎頂に細かい深い切れ込みがある葉を3枚輪生状につけます。
その中心から花茎を1本ほぼ直立させて径3cmほどの可憐な花を1輪つけます。
花被片(ガク片で花弁はない)は多く、8〜12枚ほどで、通常白色で、時に淡紫色です。

根生葉(地際の葉)は多くの場合ありませんが、2回三出複葉で小葉は羽状に深裂し、裂片には欠刻が入ります。

早春に芽を出し、春に花をつけ結実させて、初夏には地上から姿を消します。いわゆるスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれる1群の植物のひとつです。春の一瞬にだけ地上に現れて可憐な花をつけるので「春の妖精」です。
学名(属名)の「Anemone」から判りますように園芸栽培されるアネモネも仲間です。
  
近畿地方以北に自生し、日本固有種です。
多摩丘陵では、以前は自生していたと推定されますが、1980年頃以降では自生のものは確認できていません。
2010年現在ではごく限られた場所で保護植栽されているだけです。

■名前の由来
1本の花茎の茎頂にひとつだけ花をつけるので「一華(いちげ)」で、花被片の数が多くてキクの花のようであるという意味で「菊咲」です。
キクザキインリンソウの別名があります。
ただし、同じように茎を1本だけ立てて花を一輪だけつけるのは本種だけでなく後述する「イチリンソウ」や「アズマイチゲ」など多くあります。

■文化的背景・利用
万葉集やその後の多くの歌集や句集などには、知られた詩歌はないようです。
本草書などにも明確にその名は現れていないようです。

■食・毒・薬
キクザキイチゲが有毒であるという明確な報告はないようですが、キンポウゲ科の植物は、ほぼ全てが有毒です。
ただ、ニリンソウの葉は、僅かに毒成分を含みますが火を通せば毒性はなくなり、美味しい山菜として食べられます。
ただし、猛毒のトリカブトの仲間の葉によく似ているので注意が必要です。

仲間(同属)のイチリンソウは全草が有毒です。イチリンソウはむやみに摘んだりすると皮膚炎を惹き起し、誤って食べると胃腸炎を惹き起しますので注意が必要です。
キクザキイチゲを薬用にするという報告もありません。
いずれにしても、食べるのは避けるべきです。

■似たものとの区別・見分け方
仲間(同属)に、以下のようにイチリンソウ、ニリンソウ、アズマイチゲやシュウメイギクがあります。

〇草姿が似たイチリンソウは、花径が4cmくらいと大きいこと、花被片の数が5〜6枚であることで区別できます。
〇草姿が似たニリンソウは葉の裂れ込みが少ないこと、花径も2cmくらいと小さく、何よりも花を通常二つつけることで容易に区別できます。
〇また、似たアズマイチゲとは、アズマイチゲでは葉に細かい裂れ込みがなく茎葉が下方に垂れ気味になることで区別できます。

なお、多くの園芸品種が作出されているシュウメイギクは、古い時代に渡来した外来種とする説が多いようですが、多摩丘陵では、時々半野生化しています。    
  
写真は「花と茎葉」と「群生」の2枚を掲載
キクザキイチゲ
キクザキイチゲの花と茎葉
キクザキイチゲ
キクザキイチゲの群生