ヨシ(葦)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ヨシ(葦) イネ科ヨシ属
別名:アシ(葦) 学名:Phragmites communis

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■特徴・分布・生育環境
円柱形で太めの中空の茎をほぼ直立させて高さ2〜3mになる大型の多年草です。
池・沼などの水湿地〜池・沼のほとりに生育します。

根茎を伸ばして殖えるので林立状に群生します。普通は、株立ち状にはなりません。
茎には多くの節があります。

葉はやや幅広の線形で長さ40〜50cmです。

葉は、茎の上半分ほどでは横向き〜斜上するようにつきます。
茎の下半分ほどでは、葉がやや下向きになることがある。ただ、葉が大きく湾曲して下垂することはありません。
  
初秋〜秋に茎頂に、長さ20〜50cmほどの大型の円錐状の花穂をつけます。
花は褐色〜帯紫色で小さく、花穂に密につけます。

古い時代に我が国のことを「豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)」と呼んでいて、この「葦原」は「ヨシ」であるとされます。
遠い昔から薬用、食用やヨシズなどの器具用に利用され、身近な存在であったようです。

日本各地から世界各地の暖帯〜亜寒帯に広く分布します。
多摩丘陵では、溜池などの池沼などに時々見られますが、コンクリート護岸などが施されたこともあって、多くはありません。

■名前の由来
名の由来には、概ね2説があります。

・高くなって長いものは器具材などとして有用なので「ヨシ(良し)」とし、短いものは用途がないので「アシ(悪し)」とし、そこから縁起かつぎとして「ヨシ(良し)」と呼ばれたという説があります。

・上述のように、神話に「豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)」として現れているように、古くは「あし」と呼ばれていたものが、「アシ」は「悪し」に通ずるとして「ヨシ(良し)」と呼ばれるようになったという説もあります。

ただ、古事記や万葉の時代には、「アシ」とされていたようで、「ヨシ」の名はそれ以降の時代からであったと推定されます。

■文化的背景・利用
古事記や日本書紀にも「葦」が現れています。
万葉集には「葦」や「あし」として多くの歌に詠われています。
その後の「古今集」、「千載集」、「後撰集」や「新古今集」などにも多くの歌に詠われています。

「百人一首」にも選ばれている「千載集」の歌、
「難波江の あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき」
や、
同じく「百人一首」にも選ばれている「新古今集」の歌、
「なにはがた 短きあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや」など
はよく知られています。

平安時代の「倭名類聚抄」や「本草和名」に「蘆葦」や「蘆根」として「和名 阿之(あし)」などとされて現れています。
江戸時代の「本草綱目啓蒙」に「アシ」や「ヨシ」などとして現れています。

万葉集に、
「葦辺なる 荻の葉さやぎ 秋風の 吹き来るなへに 雁鳴き渡る」
があるとされています。
この歌では「葦辺」に「荻」が現れています。似ているとは言え万葉の時代には既に「アシ(葦)」と「オギ(荻)」は明確に区別されていたようです。

また、江戸時代の小野蘭山による「本草綱目啓蒙」に「荻 ヲギ(注:オギ) ヲギヨシ(注:オギヨシ)とも云う・・・」とされています。
この本草綱目啓蒙では、「オギヨシ」とされているので、「オギ」は「ヨシ(別名:アシ)」と似ているけれど別種であると認識されていたと考えられます。

ヨシは、古い時代から細くて長い茎を編んで、「すのこ」、「すだれ」や「よしず」などとして利用されてきています。

■食・毒・薬
冬に採取した根茎を天日乾燥したものが生薬「蘆根(ろこん)」で、煎じたもの吐き気止め、利尿、止血や消炎作用があるとされています。
細いタケノコのような芽生えの筍は、苦みがありますが食べられます。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間「ヨシ属」には、アシ(別名:ヨシ)、ツルヨシセイタカヨシ(別名:セイコノヨシ)がありますが、互いによく似ています。

アシ(別名:ヨシ)は、溜め池のそばや河川の下流域などの水湿生地に自生します。水流がほとんどないような泥湿地を好みます。
・これに対して、ツルヨシは河川の中・上流部などの砂質の水湿生地を好みます。少し水流があるような場所に多い。
また、ツルヨシは長い地上匍枝を出しますが、アシは地上には出しません。

この2種は、穂の形状や節の開出毛の有無などで同定しますが、一般にはこれらで確信を持つのは難しい。
さらに、普通は近寄ることが困難な水湿生地に自生しているので余計に確認が難しい。

セイタカヨシ(別名:セイコノヨシ)では、名の通り草丈が3mほど(アシやツルヨシでは2m前後)と見た目でも大型です。
ほとんどの場合、セイタカヨシでは葉の先端部が横向き〜やや上向きで、下向きに湾曲することはありません。アシやツルヨシでは、茎の下方につく葉が少し下向きに湾曲します。

・なお、草姿(花穂、葉の態様や草丈)がどことなく似ているススキオギの仲間(ススキ属)では、葉の中心線に白状があることで区別できます。
詳しくはそれぞれの項で確認できます。    
  
写真は「花穂」、「全体:林立」、
「上部の葉」と「斜上する葉」の4枚を掲載
ヨシ
ヨシの花穂
ヨシ
ヨシの群生
林立することも多い
普通は葉は横向きに出る
ヨシ
ヨシの茎上部の葉
ヨシ
斜上する葉