オギ(荻)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

オギ(荻) イネ科ススキ属
学名:Miscanthus sacchariflorus

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■特徴・分布・生育環境   
日当たりの良い池・沼などの水湿生地〜池・沼のほとりに自生する大型の多年草で、高さ2m〜3mになります。

根茎を長く引いて株を立てるので、普通は林立状に群生します。
なお、よく似たススキでは、根茎は短いので株立ち状になります。

葉は、線形で長さ80cm前後にも達し、茎にも多く付きます。長さ40cmほどの比較的短い葉もあります。

葉は、斜上して中ほどで大きく下方に湾曲し下垂します。
葉の中心には白条が入ります。

葉の縁は多くのカギ状の鋸歯があるので、不用意に触ると切り傷を負います。

花は、秋につけます。
茎頂に、数多くに分岐する線形の花(果)穂をつけます。
全体として長さ40cmほどになる穂をなします。

ススキの穂(30cmほど)よりも長いことが多い。ただ、オギとススキを穂の長さで判別することは難しい。

分岐したそれぞれの花(果)穂を「総」(ふさ)と呼びます。
総は普通は一方向に偏ってつきます。

総には、周囲に長さ6mm前後の披針形の小穂が密に多くつきます。
小穂の先には糸(針)状の芒(ノギ)は普通はない。ススキにはあります。
また、小穂の基部には長さ2〜3cm前後の白い基毛が多数あります。ススキでは長さ1cmほどと短い。

果実(エイ果)には白い細毛が多い(基毛が開く)ので穂全体が白く見えます。
終期には穂が全体に銀白色の長い毛に覆われているように見え、横に流れる密な房状(長さ40cmほどになる)になります。

日本各地から北東アジアに分布します。
多摩丘陵では、自生に適した水湿生地が護岸等により激減したことによって見かけることは少ない。

■名前の由来
「オギ」の名の由来については諸説ありますが、定説はありません。

・風に揺れる様子を「あふぐ」と言いそこから転訛したという説があります。

・あるいは、「招く」の古語「をく」の活用形「をき」から転訛したという説もあります。
古い時代には有用な植物などには霊力があると考えられていて、オギが霊力を「招き寄せる」ことから「をき」となったという民俗学的な解釈です。

平安時代の源順による「倭名類聚抄」に「荻」として「和名 乎木」(オギ)とされているので、平安時代に入る頃には既に「オギ」の名はあったと考えられます。

また、このころに「荻」の漢字をあてていたようです。「萩」(はぎ)の字と多少紛らわしいところがあります。

ただ、江戸時代の本草書である「本草綱目啓蒙」に、後述のように「荻」として「オギ」や「オギヨシ」といった呼び名に加えて10個ほどの別名(地方名かもしれません)があげられています。
それだけ身近な植物であったと考えられます。

よく使われる「茅・萱(かや)」は、普通はススキを意味するようですが、このオギも含んでいたと考えられます。

■文化的背景・利用
万葉集に、3首で詠われているとされています。そのうちの1首に、
「葦辺なる 荻の葉さやぎ 秋風の 吹き来るなへに 雁鳴き渡る」
があるとされています。
ただ、当時、「オギ」についてどのような表記をされていたかは未確認です。

この歌では「葦辺」に「荻」が現れています。似ているとは言え万葉の時代には既に「アシ」と「オギ」は明確に区別されていたようです。

万葉集以降の後撰和歌集や新古今集にも何句かで「おぎ」が歌われています。
西行(法師)による「山家集」でも数首に歌われていて、
「をぎのは(荻の葉)を ふきすぎて(吹き過ぎて)ゆく 風のおとに 心みだるゝ 秋のゆふぐれ」
があります。

また、源氏物語、蜻蛉日記、平家物語、徒然草、近松浄瑠璃集、芭蕉句集など多くの文芸にその名が現れているとされます。

さらに、平安時代の源順による「倭名類聚抄」に「荻」として「和名 乎木」(オギ)とされているので、古い時代には既に「オギ」の名があったと推定されます。
また、このころに「オギ」の呼び名に漢字の「荻」があてられたものと考えられます。

ただし、別名も多くあったようです。
江戸時代の小野蘭山による「本草綱目啓蒙」に「荻 ヲギ(注:オギ) ヲギヨシ(注:オギヨシ)とも云う・・・」とされています。
さらに続けて「古歌ニハ」としてフミゝグサ ヤマシタグサ・・・などの10個ほどの名前があげられています。

この本草綱目啓蒙では、「オギヨシ」とされているので、「オギ」は「ヨシ(別名:アシ)」と似ているけれど別種であると認識されていたと考えられます。
同じく江戸時代の貝原益軒による大和本草にもその名が現れているとされます。

また、仲間(同属)のススキオギは互いによく似ていますが、万葉集にはススキもオギも別途詠われていて、古い時代から既に別種として認識されていたと考えられます。

昔は、ススキを屋根葺(ふ)きや炭俵など、あるいは家畜の餌などとして広く利用していました。オギも同様に利用されていたと考えられます。

■食・毒・薬
ススキは民間で根茎を乾燥させ刻んだものを煎じて利尿・解毒などに用いるようですが、オギについては確認できていません。
葉や穂は硬くて人間の食用には到底なりません(消化できません)。ただ、有毒であるという明確な報告はないようです。

■似たものとの区別・見分け方
イネ科の植物は、花(穂)が質素で葉も線形なのでもともと見分け難いところがあります。

よく知られているススキの仲間(ススキ属)には次の7種ほどがあります。
多摩丘陵で見かけることがあるのは、ススキオギです。他は、未確認です。

ススキは、土手や草地など、普通は湿生の低い場所に生育します。ただし、時に池・沼のほとり〜水湿生地にも生育します。
穂は全体の長さとしては普通は25〜30cmほどです。
また、穂は束状で余り開きません。
穂は、初期〜中期は帯緑色〜帯紫色ですが終期には白色になります。

オギは、水湿生地〜池・沼のほとりに生育します。
穂の基部にある基毛が小穂よりもかなり長く、終期には穂全体に銀白色の長い毛に覆われます。
穂が横に流れる密な房状(長さ40cmほどになる)に見えるのが特徴です。
ススキの穂も終期には白色になりますが、基毛が短く穂自体もオギよりも短い(長さ25〜30cm)ことで区別できます。
ただ、基毛だけで確信を持つことは難しい。

このようにススキオギは、互いによく似ています。

この2種は、「少し離れて見た全体の見た目」で区別できます。
ススキは茎(や葉)が「株立ち」状になります。根茎が短いのでほぼ1ヶ所から茎(や葉)出ます。
オギは茎が「林立」しています。根茎が長いので茎が比較的行儀よく並び立ちます。

「小穂の先の糸(針)状の芒(ノギ)の有無」、「小穂の基部の基毛の長さ」や「自生する場所の湿生の度合い」でも区別することはできますが確信を持つのは難しい。

カリヤスでは、線形の総(枝分かれする線形の穂)が掌状に広がっていることで区別できます。
また、そのせいで穂が広がっているので、穂がまばらに見えることが普通です。

ハチジョウススキは、ススキを少し大型にした草姿で、葉裏が粉白色です。本州中部の太平洋岸〜琉球列島などの海岸に近い場所に自生します。

トキワススキは、ススキよりも明らかに大型で常緑です。暖地性で関東南部以西の草地や傾斜地などに自生します。

カリヤスモドキは、カリヤスにそっくりですが、葉裏が有毛です。山地性です。

オオヒゲナガカリヤスモドキもカリヤスによく似ています。葉の幅がカリヤスよりも広く寒冷地性で本州中部以北の日本海側に自生します。

なお、この仲間(ススキ属)では葉の中央に白条があります。ただ、他の種にも白条はあるので白条だけでは決め手にはなりません。

・草姿(花穂、葉の態様や草丈)や自生環境がどことなく似ているアシ(別名:ヨシ)の仲間(ヨシ属)では、
−葉の長さがススキやオギなどの半分ほどで大きく下垂することはありません。
−また、葉の中央には白条はありません。
「ヨシ属」には、アシ(別名:ヨシ)、ツルヨシセイタカヨシ(別名:セイコノヨシ)がありますが、互いによく似ています。

アシ(別名:ヨシ)は、溜め池のそばや河川の下流域などの水湿生地に自生します。水流がほとんどないような泥湿地を好みます。
・これに対して、ツルヨシは河川の中・上流部などの砂質の水湿生地を好みます。少し水流があるような場所に多い。
なお、ツルヨシは長い地上匍枝を出しますが、アシは地上には出しません。

この2種は、穂の形状や節の開出毛の有無などで同定しますが、一般にはこれらで確信を持つのは難しい。
また、普通は近寄ることが困難な水湿生地に自生しているので余計に確認が難しい。

セイタカヨシ(別名:セイコノヨシ)では、名の通り草丈が3mほど(アシやツルヨシでは2m前後)と見た目でも大型です。
ほとんどの場合、セイタカヨシでは葉の先端部が横向き〜やや上向きで、下向きに湾曲することはありません。アシやツルヨシでは、茎の下方につく葉が少し下向きに湾曲します。    
  
写真は「オギの終期の穂」、「終期の穂の基毛」、
「帯紫色の若い花穂」、「穂の群生」
「林立する全体」と「葉:中央に白条」
の6枚を掲載
オギ
オギの終期の穂
オギ
終期の穂の基毛
ススキよりも明らかに長い
オギ
帯紫色の若い花穂
オギ
オギの穂の群生
オギ
林立する全体
オギ
オギの葉:中央に白条