■特徴・分布・生育環境
草丈30cmほど、時に70cmほどにもなる越年草です。
夏(多摩丘陵では5月に入る頃から)に、傘型(複散型花序)の花序を茎頂につけ、径3mm前後のとても小さな白色の5弁花を多数つけます。
花の写真は、後述するオヤブジラミとほぼ同じですのでそのページを参照ください。
葉は、一〜二回三出羽状複葉(葉軸が一〜二回分枝しそれぞれの葉軸に羽状に小葉をつける)で、小葉は細かく深裂しているので、全体に細裂した葉であるように見えます。
果実は卵状紡錘型で長さ3mmほどと小さく、全体に、先がカギ状に曲った剛刺毛を密につけます。この剛刺毛で衣服などによくくっつく「クッツキ虫」です。
全体に後述する「オヤブジラミ」にそっくりですが、オヤブジラミでは明らかな果(花)柄があるのが特徴で、果実や花がややまばらにつきます。
日本各地から世界に広く分布します。
多摩丘陵では、半日陰になるようなやや湿性のある林縁や草地などにしばしば見かけます。
■名前の由来
「シラミ」の名は、果実が衣服などに多くくっつく様子と形を、毛髪につく寄生虫である「虱(しらみ)」に擬(たと)えたもので、藪(やぶ)に多いという命名です。
後述する仲間(同属)の「オ(雄)ヤブジラミ」は、ヤブジラミに似ていて、全体に強壮であるという命名のようですが、両者はとてもよく似ていて、慣れないと区別できません。
■文化的背景・利用
万葉集など知られた詩歌などには詠われていないようです。
江戸時代の芭蕉の句に「夏衣(なつごろも) いまだシラミを 取り尽さず」がありますが、これは寄生虫のシラミで、植物ではありません。
「ヤブジラミ」は平安時代の「本草和名」や「倭名類聚抄」にその名が現れているようです。古い時代から身近であったようです。
江戸時代の「本草綱目啓蒙」などにもその名が現れています。
■食・毒・薬
「ヤブジラミ」の果実は、漢方で「蛇床子(じゃそうし)」と呼ばれ、塗り薬として皮膚のかゆみに効能があるとされるようです。
毒性の報告はないようですが、食用にもしません。
■似たものとの区別・見分け方
○全体に仲間(同属)のオヤブジラミにそっくりですが、オヤブジラミでは明らかな果(花)柄があるのが特徴で、果実や花がややまばらにつきます。ヤブジラミでは果実や花はやや密にくっついてつきます。植物学的には、オヤブジラミでは、葉は三回三出羽状複葉ですが、ヤブジラミでは1〜2回三出羽状複葉です。
○よく似たセントウソウでは、花期が1ヶ月ほど早いのが特徴のひとつで、見分ける目安になります。
また、ヤブジラミやオヤブジラミでは、小さな花は茎頂にややまばらにつきますが、セントウソウでは小さな花は茎頂にかなり密に固まってつきます。
さらに、セントウソウの果実はかなり細い紡錘型で無毛ですが、ヤブジラミやオヤブジラミの果実はころっとした紡錘型でカギ状の剛刺毛で覆われています。
○別属ですがヤブニンジンも似た環境に生育し、やや似ていますが。小葉が葉先が三角形状の卵型で、ヤブジラミやオヤブジラミのように小葉が深裂せず、粗い鋸歯(歯の縁のギザギザ)になっていることで区別できます。いずれにしてもヤブニンジンの果実は細長い棒状で、細長い柄の先に放射状に線香花火のようにつけるので容易に区別できます。
|
|
写真は「果実」と「葉」の2枚を掲載 |
|
ヤブジラミの果実 |
|
ヤブジラミの葉 |
|