ウシハコベ(牛繁縷)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ウシハコベ(牛繁縷) ナデシコ科ウシハコベ属
学名:Myosoton aquaticum

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■特徴・分布・生育環境
「ハコベ」の名はありますが、春の七草として数えられている「ハコベラ」には含まれていなかったと思われます。
春の七草は、後述する近縁(ウシハコベ属でなくハコベ属)のコハコベ(ハコベ)やミドリハコベであると思われます。

なお、よく混同されていますが、「コハコベ」と「ハコベ」は同一種で、植物学上の標準的な和名は「ハコベ」です。他の「ハコベ」の仲間と区別するために、一般的には「コハコベ」と呼ばれています。
  
ハコベの仲間に比べると、成長すると草丈も葉も大型になる2年草または多年草です。
ただ、芽生えてまだ若い個体では草丈も葉もハコベの仲間と同じくらいなので、注意が必要です。

草丈は若い個体では10cmほどで、成長すると50cmほどになり、多く枝分かれして斜めに立ち上がります。

花は、春から秋まで長い間咲いています。
花径はハコベの仲間よりやや大きく、径1cm前後で、花弁は白く5枚ですが、花弁が2深裂しているため、花弁は10枚に見えます。
また、他のハコベの仲間(ハコベ属)ではメシベの先は3裂していますが、ウシハコベではメシベの先は5裂しているのが特徴です。

葉は多くつき、卵型で、成長した個体では長さ8cm、幅3cmにもなり、葉先は鋭三角形状です。
この仲間(同属)や近縁の種については、後述の通りです。
通常は、ハコベ属から独立させてウシハコベ属に分類されます。

日本各地から世界に広く分布します。
多摩丘陵では、他の仲間や近縁の種とともに、草地や畑や田の縁などに比較的よく見かけます。

■名前の由来
草姿や葉などが大きくなるので、ハコベの仲間に比して大きいという意味で「ウシ(牛)」ハコベとなったようです。
なお、「ハコベ」の名は、万葉集に現われている「波久培良(ハクベラ)」から「ハコベラ」になり、「ハコベ」に転訛したものというのが一般的です。
ただ、「ハクベラ」の名の由来はよくわかっていないようです。

■文化的背景・利用
万葉集を始め知られた詩歌や本草書(辞典)には、その名は現れてはいないようです。
なお、「春の七草」は「芹なずな 御形はこべら 佛の座、すずなすずしろ これぞ七草」の歌が元になっているというのが定説ですが、この歌がいつ頃誰によってつくられたかは、諸説はありますがはっきりとしてはいません。
現存最古の本草書(薬物辞典)で、平安時代初期に編纂された「本草和名」に「ハクベラ」の名が現れているようです。

■食・毒・薬
後述のコハコベやミドリハコベは、次のように利用されますが、ウシハコベが同様に利用されるかどうかは確認できていません。

コハコベやミドリハコベの全草を天日乾燥したものが生薬の「繁縷(ハンロウ)」で、煎じたものに産後の浄血、催乳や肝臓病のむくみなどに効能があるとされています。

昔は、コハコベやミドリハコベを干して砕き塩をまぜて、歯磨(はみがき)粉にしたようです。
コハコベやミドリハコベの若い葉や茎を茹でて、おひたし、あえもの、汁の実などにし、また、そのまま天ぷらにしますが、ウシハコベも同様に食用にされたと推定されますが、未確認です。

■似たものとの区別・見分け方
多摩丘陵では、似たものとして次の7種が確認できています。

○5枚の花弁が2深裂していて、花弁が10枚に見えるハコベの仲間(ハコベ属)やウシハコベ
コハコベ(ハコベ)ミドリハコベはよく似ていますが、一般的には、コハコベの茎は紫色を帯びているのに対して、ミドリハコベは茎が緑色を帯びていることで区別します。植物学的には、種子の突起の形態で同定します。コハコベ(ハコベ)では種子の突起は半球形ですが、ミドリハコベでは種子の突起は円錐状です。
ノミノフスマもコハコベやミドリハコベに似ていますが、コハコベやミドリハコベでは葉は長さ2cmほどであるのに対して、長さ8mmほどの小さい葉が多く、何よりも花弁がガク片よりも明らかに長く、上から見るとガク片が目立たないことで区別できます。また、どちらかというと湿性の高い場所に生育します。
ウシハコベは、コハコベやミドリハコベでは葉はせいぜい長さ2cmほどであるのに対して、葉が長さ8cmにも及ぶものがあり、全体に大型なことで容易に区別できます。また、他のハコベの仲間ではメシベは3裂していますが、ウシハコベでは5裂していることもよい区別点です。植物学的には、ハコベ属ではなく、近縁のウシハコベ属として独立させることが普通です。

○5枚の花弁が2浅裂していて、花弁の先がハート型になるミミナグサの仲間
オランダミミナグサでは花茎が極端に短く、茎の先にいくつかの花が密についています。また、全体に毛が多いのが目立ちます。
ミミナグサでは、花茎の長さが5〜15mmで、明らかな花茎があるように見え、また、花の数もややまばらで、オランダミミナグサのように密にはつけません。

○5枚の花弁の先は鈍三角形状で裂開しないノミノツヅリ(ノミノツヅリ属)
ノミノツヅリの葉は、長さ3〜7mmと、ノミノフスマ同様に小さい点では似ていますが、花弁の先が裂開しないことで、容易に区別できます。    
  
写真は「花(1)」、「花(2)」と「花と葉」
の3枚を掲載
ウシハコベ
ウシハコベの花
ウシハコベ
花(咲き始め)
柱頭(雌シベの先)が5裂
ウシハコベ
ウシハコベの花と葉