オオバタネツケバナ(大葉種浸け花)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

オオバタネツケバナ(大葉種浸け花) アブラナ科タネツケバナ属
学名:Cardamine regeliana

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■特徴・分布・生育環境
花時に、草丈20〜40cmほどになる1年〜越年草です。水流の傍〜水分の多い泥湿地などの湿性の高い場所に生育します。

全体に、多摩丘陵に自生があるタネツケバナミチタネツケバナにとてもよく似ています。
この3種は相互によく似ている上に、中間的な形質を示すことがあるので見分けるのが難しい。

茎の下部から茎を分け、春早くから茎頂に径6mm前後の小さな花を多くつけます。花は四弁花(十字花)で白色です。
花序は密な房状(総状花序)で、周囲の花が開花すると花序は上に伸びて順に開花していきます。したがって、花の盛りの頃には、花序の下部は順に長さ2cmほどのとても細長い棒状(長角果)の果実になっていきます。

葉は長さ7cm前後の奇数羽状複葉(葉軸に沿って小葉を左右に並べ先端に一個の小葉をつける)で、先端の頂小葉が明らかに大きいのが大きな特徴です。
根生葉では頂小葉は長さ幅とも2〜2.5cmほどで円形に近い。茎の中部〜上部につく茎葉では、頂小葉はやや細長く、幅1cm前後で長さ2cm前後の楕円形です。他の小葉は長さ1cmほどと小さく狭楕円形です。葉先にはまばらに裂れ目が入ります。

花期には根生葉(地際の葉)はなくなります。ただし、花期の最初の頃に、根生葉が残っていることがあります。このような場合は、ミチタネツケバナに似ています。ミチタネツケバナも奇数羽状複葉の頂小葉が側小葉よりも大きいので、オオバタネツケバナと紛らわしい。

早春の葉(または越冬葉)は、平らな泥湿地といった条件のよい場所では、放射円形状(ロゼット葉)になり、頂小葉の大きさが目立ちます。

果実は長さ2cmほどの細長い棒状(長角果)で四方に広げるように斜上させます。似たタネツケバナの果実は斜上する果柄の先の部分で上方に折れ曲がり、果実はほぼ直立するのが特徴です。ただし、時に横に広がることがあります。

日本各地から北東アジアの温帯〜冷温帯に広く分布します。
多摩丘陵では、丘陵地の谷戸奥の小川沿や泥湿地などに稀に見かけます。田など人による手入れが入る場所では見かけません。

■名前の由来
苗代に種籾(たねもみ)を播く前に水に浸ける頃に花が咲くので「種浸け花」となったというのが一般的です。「オオバ(大葉)」は頂小葉が大きいことからです。
ただし、外来種であるミチタネツケバナも下部の葉の頂小葉が側小葉よりも大きいので注意が必要です。

■文化的背景・利用
万葉集やその後の多くの和歌集や文芸などには、タネツケバナの名は現れていないようです。
江戸時代の貝原益軒による「大和本草」や「本草綱目啓蒙」などにタネツケバナの名が現れています。
ただし、オオバタネツケバナとしては現れていません。

■食・毒・薬
タネツケバナは、民間で、乾燥させた果実を腫れ物や利尿などに利用するようです。また、乾燥させた全草を尿道炎や膀胱炎などに利用するようです。オオバタネツケバナについては不明です。
タネツケバナやオオバタネツケバナの若い葉は生のままサラダなどに、また茹でて水に晒し和え物やおひたしにして食用にできます。結構美味しいものです。ただし、成葉はスジが多く食用には適しません。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(タネツケバナ属)は10種以上あり、互いに似ていて見分けるのが結構難しい種類です。

タネツケバナは、田などの湿性がかなり高い場所に生育します。葉は奇数羽状複葉ですが頂小葉も含めて大きさがほぼ同じで、長さ1cmほどの楕円形です。
ただし、小葉は多くの場合3浅裂しています。
花期には根生葉(地際の葉)はありません。

果実は最初は果柄が斜上して途中で上方にほぼ直立させます。ただし、横に広がることがあります。

ミチタネツケバナ(路種浸け花)は外来種で、タネツケバナやオオバタネツケバナとは異なりやや乾いた場所に生育し花期に根生葉(地際の葉)があります。果実が茎に沿って真っ直ぐに立っているのが特徴で、タネツケバナやオオバタネツケバナとのよい区別点です。茎の基部の葉は、オオバタネツケバナと同様に頂小葉のほうが側小葉よりも大きいので、果実の付き方で見分けたほうがよい。

オオバタネツケバナ(大葉種浸け花)では、茎の下部の葉の頂小葉(奇数羽状複葉の先端の小葉)が他の小葉よりもずっと大きく、長さ(径)2〜2.5cmほどとタネツケバナの頂小葉(長さ(径)1cmほど)の2倍ほど大きいのが特徴です。また、茎の中程の葉では頂小葉は長さ2cm前後の楕円形で葉先にまばらに裂れ目が入ります。この茎葉の形態が、タネツケバナやミチタネツケバナとのよい区別点です。ただし、上記のミチタネツケバナも葉の頂小葉が大きいので注意が必要です。
果実は普通は四方に開くように斜上しているので、タネツケバナやミチタネツケバナと区別する際の目安のひとつになります。また、タネツケバナと同様に花時には根生葉はありません。

上記3種では、雄シベの本数は普通は6本ですが、4〜5本のこともあります。

タチタネツケバナ(立種浸け花)は、茎を直立させることからこの名がありますが、多くの場合下部で茎を分けて叢生するので、斜上している茎も多い。
タネツケバナと同じような環境に生育しますが、タネツケバナよりも草丈がやや高くなり、タネツケバナとは異なり花期に根生葉(地際の葉)があります。また、タネツケバナとは異なり茎葉の小葉が3深裂しているので、細い葉が葉軸に沿って並んでいるように見えます。多摩丘陵では未確認です。

分布域的には以下が多摩丘陵に自生する可能性がありますが、マルバコンロンソウを除いて未確認です。
コンロンソウは、名前は変わっていますがタネツケバナの仲間です。花径が1.5cmほどとタネツケバナの2倍以上大きく、また、小葉が先端が鋭三角形状の狭長楕円形状なのが特徴です。
マルバコンロンソウは稀少種ですが多摩丘陵のある場所で自生を確認できています。花はコンロンソウに似ていますが花径1cmほどとコンロンソウよりも少し小さくタネツケバナよりも一回り大きく、奇数羽状複葉の頂小葉が長さ(径)2.5cmほどと他の小葉よりもかなり大きいのが特徴のひとつで、小葉は円形〜卵型で葉縁が粗くて鈍頭な鋸歯(葉の縁のギザギザ)であることでコンロンソウ、タネツケバナやオオバタネツケバナとは大きく異なります。
ヒロハコンロンソウは、花や草姿はコンロンソウによく似ていますが、小葉が卵型〜卵状楕円形で、コンロンソウの小葉よりも幅広く見えます。また、葉先はコンロンソウのように鋭三角形状ではなく普通の三角形状です。
ミツバコンロンソウは、花や草姿はコンロンソウによく似ていますが、コンロンソウのような羽状複葉ではなく3枚の小葉からなる三出複葉です。
ジャニンジンでは、羽状複葉が細長くてさらに裂れ込みが入るので、ややニンジンの葉に似ています。
ミズタガラシ(水田芥子)は多年草で、水湿地に稀に自生します。茎が太いのが特徴で、茎を直立させ枝分かれせず、基部から匍匐茎を出します。花は、径1cmほどとタネツケバナよりも少し大きい。オオバタネツケバナと同じように葉の頂小葉が明らかに大きい。
なお、名前が似ている単なる「タガラシ(田辛子)」はキンポウゲ科で全く別種です。    
  
写真は「全体」、「花と葉」、「果実」、「茎葉」
と「根生葉」の5枚を掲載
オオバタネツケバナ
全体(根生葉はない)
頂小葉は大きく長楕円形
オオバタネツケバナ
花と葉
オオバタネツケバナ
オオバタネツケバナの果実
開くように斜上する
オオバタネツケバナ
オオバタネツケバナの茎葉
頂小葉は大きく長楕円形
オオバタネツケバナ
根生葉
頂小葉は大きく円形