ミチタネツケバナ (路種浸け花)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ミチタネツケバナ (路種浸け花) アブラナ科タネツケバナ属
学名:Cardamine hirsuta

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■特徴・分布・生育環境
ごく最近(1970年代とも言われます)に欧州から渡来し急速に日本各地に広がった外来種です。

草丈30cmほどになる1年草です。後述のタネツケバナとは異なりやや乾いた場所に生育します。
茎の下部から茎を分け、春早くから初夏にかけて茎頂に径7mm前後の小さな花をいくつかつけます。花は四弁花(十字花)で白色です。

葉は長さ7cm前後の奇数羽状複葉(葉軸にそって左右に小葉を並べ先端に1枚の小葉をつける)で、小葉は小さく楕円形から円形です。タネツケバナとは異なり花期には根生葉(地際の葉)は残っています。

果実は長さ2cmほどの細長い棒状(長角果)で、果実は茎に沿って真っ直ぐに立つのが特徴です。タネツケバナでは、斜上させてから途中でほぼ直立させます。

多摩丘陵では、やや乾いた路傍などによく見かけます。

■名前の由来
「タネツケバナ(種浸け花)」の名は、苗代に種籾(たねもみ)を播く前に水に浸ける頃に花が咲くので「種浸け花」となったというのが一般的です。「路」は、タネツケバナが水湿地に生育するのに対してやや乾いた路傍などに生育することからです。

■文化的背景・利用
渡来して歴史が浅いので知られて詩歌や文芸、あるいは本草書などにはその名は現れていません。
なお、「タネツケバナ」は江戸時代の貝原益軒による「大和本草」や「本草綱目啓蒙」などにその名が現れています。

■食・毒・薬
ミチタネツケバナについては、有毒であるという報告も薬用にするという報告もありません。食用にはできそうですが、未確認です。
なお、タネツケバナは、民間で、乾燥させた果実を腫れ物や利尿などに利用するようです。また、乾燥させた全草を尿道炎や膀胱炎などに利用するようです。
また、タネツケバナの若い葉は生のままサラダなどに、また茹でて水に晒し和え物やおひたしにして食用にできます。結構美味しいものですが、成葉はスジが多く食用には適しません。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(タネツケバナ属)は10種以上あり、互いに似ていて見分けるのが結構難しい種類です。

タネツケバナは、田などの湿性がかなり高い場所に生育します。葉は奇数羽状複葉ですが頂小葉も含めて大きさがほぼ同じで、長さ1cmほどの楕円形です。ただし、小葉は多くの場合3浅裂しています。
花期には根生葉(地際の葉)はありません。
果実は最初は果柄が斜上して途中で上方にほぼ直立させます。ただし、横に広がることがあります。

ミチタネツケバナ(路種浸け花)は外来種で、タネツケバナやオオバタネツケバナとは異なりやや乾いた場所に生育し花期に根生葉(地際の葉)があります。果実が茎に沿って真っ直ぐに立っているのが特徴で、タネツケバナやオオバタネツケバナとのよい区別点です。茎の基部の葉は、オオバタネツケバナと同様に頂小葉のほうが側小葉よりも大きいので、果実の付き方で見分けたほうがよい。

オオバタネツケバナ(大葉種浸け花)は、丘陵地の谷戸奥の水流のそばなどに稀に自生しています。
茎の下部の葉の頂小葉(奇数羽状複葉の先端の小葉)が他の小葉よりもずっと大きく、長さ(径)2〜2.5cmほどとタネツケバナの頂小葉(長さ(径)1cmほど)の2倍ほど大きいのが特徴です。
また、茎の中程の葉では頂小葉は長さ2cm前後の楕円形で葉先にまばらに裂れ目が入ります。この茎葉の形態が、タネツケバナやミチタネツケバナとのよい区別点です。
ただし、上記のミチタネツケバナも葉の頂小葉が大きいので注意が必要です。
果実は普通は四方に開くように斜上しているので、タネツケバナやミチタネツケバナと区別する際の目安のひとつになります。また、タネツケバナと同様に花時には根生葉はありません。

上記3種では、雄シベの本数は普通は6本ですが、4〜5本のこともあります。

タチタネツケバナ(立種浸け花)は、細い茎を直立させるのでこの名がありますが、下部で茎を分けて叢生することが多いので斜上している茎も多い。
タネツケバナと同じような環境に生育しますが、タネツケバナよりも草丈がやや高くなり、タネツケバナとは異なり花期に根生葉(地際の葉)があります。また、タネツケバナとは異なり茎葉の小葉が3深裂しているので、細い葉が葉軸に沿って並んでいるように見えます。多摩丘陵では未確認です。

分布域的には以下が多摩丘陵に自生する可能性がありますが、マルバコンロンソウを除いて未確認です。
コンロンソウは、名前は変わっていますがタネツケバナの仲間です。花径が1.5cmほどとタネツケバナの2倍以上大きく、また、小葉が先端が鋭三角形状の狭長楕円形状なのが特徴です。
マルバコンロンソウは稀少種ですが多摩丘陵のある場所で自生を確認できています。花はコンロンソウに似ていますが花径1cmほどとコンロンソウよりも少し小さくタネツケバナよりも一回り大きく、奇数羽状複葉の頂小葉が長さ(径)2.5cmほどと他の小葉よりもかなり大きいのが特徴のひとつで、小葉は円形〜卵型で葉縁が粗くて鈍頭な鋸歯(葉の縁のギザギザ)であることでコンロンソウ、タネツケバナやオオバタネツケバナとは大きく異なります。
ヒロハコンロンソウは、花や草姿はコンロンソウによく似ていますが、小葉が卵型〜卵状楕円形で、コンロンソウの小葉よりも幅広く見えます。また、葉先はコンロンソウのように鋭三角形状ではなく普通の三角形状です。
ミツバコンロンソウは、花や草姿はコンロンソウによく似ていますが、コンロンソウのような羽状複葉ではなく3枚の小葉からなる三出複葉です。
ジャニンジンでは、羽状複葉が細長くてさらに裂れ込みが入るので、ややニンジンの葉に似ています。
ミズタガラシ(水田芥子)は多年草で、水湿地に稀に自生します。茎が太いのが特徴で、茎を直立させ枝分かれせず、基部から匍匐茎を出します。花は、径1cmほどとタネツケバナよりも少し大きい。オオバタネツケバナと同じように葉の頂小葉が明らかに大きい。
なお、名前が似ている単なる「タガラシ(田辛子)」はキンポウゲ科で全く別種です。    
  
写真は「花」、「花と根生葉」、「果実」と「全体」
の4枚を掲載
ミチタネツケバナ
ミチタネツケバナの花
ミチタネツケバナ
ミチタネツケバナの花と根生葉
ミチタネツケバナ
ミチタネツケバナの果実
ミチタネツケバナ
ミチタネツケバナの全体