ミズオトギリ(水弟切)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ミズオトギリ(水弟切) オトギリソウ科ミズオトギリ属
学名:Triadenum japonicum

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■特徴・分布・生育環境
多摩丘陵では、絶滅が危惧される種となっています。
2015年現在では、ごく限られた場所に少ない個体数が保全されているだけになっています。

湿性地に自生する多年草です。地下茎を引いて新株を出すので群落を作ることが多い。
「オトギリ」の名がありますがオトギリソウの仲間(オトギリソウ属)ではなく、「ミズオトギリ属」です。
  
花時には草丈30cm〜60cm、時に80cm前後で、茎を直立させ、大きな個体では上部で枝を分けます。

夏〜初秋(多摩丘陵では6月末〜8月)に、茎上部の葉腋〜茎頂にかけて数段にわたって(小さい個体では茎頂のみ)に数個の径1cmほどの淡紅色の5弁花をつけます。
花は1日花で、午後2時〜3時前後に開花し夜には花を閉じます。

葉は、長さ7cm前後、巾3cmほどの長楕円形で葉先は円形です。比較的幅広に見えます。葉柄はなく対生(一対になってつく)します。

オトギリソウの仲間には葉や花に「明点」(明るい小さな点)や「黒点」(黒い小さな点)(油点)があるのが特徴ですが、ミズオトギリでは、葉に明点が多くあります。

日本各地〜北東アジアに分布します。
多摩丘陵では、1960年代ごろまでは、比較的多くの谷戸の奥の溜池や湿性地に自生があったようですが、溜池や水路などが改変されコンクリートなどで護岸が進んだ結果、自生環境が失われて1900年代頃には地域的な絶滅危惧種となっています。
2015年現在では、ある里山公園で保全されているのを確認できているだけです。

■名前の由来
「ミズ」は「水」で水湿性地に自生することからで、「オトギリ」は「弟切」で草姿がオトギリソウに似ていることからです。
ただ、いつごろこの名が定まったのかは判っていません。
なお、花の形や色はオトギリソウの仲間とはかなり違います。オトギリソウの仲間の花の色は黄色です。

「弟切草」とは物騒な名前ですが、昔、秘密の薬草を用いて鷹の傷を治すことで有名な鷹匠(たかしょう)の兄弟がいましたが、ある時、弟がその薬草の名を漏らしたことに怒った兄がその弟を切り殺してしまったという伝説があります。
その時の血しぶきがオトギリソウにかかって油点になったとされています。

■文化的背景・利用
「ミズオトギリ」としては、知られた詩歌や本草書には現れていないようです。
なお、「オトギリソウ」としては、江戸時代の貝原益軒による「大和本草」、あるいは「和漢三才図絵」などの本草書に現れています。

■食・毒・薬
「ミズオトギリ」を薬用にするという報告はないようです。

しかし、近縁のオトギリソウは薬草としてよく知られていて、神経痛、リュウマチ、痛風などの鎮痛や月経不順などの内用薬・浴用薬、打ち身や外傷の外用薬に効能があるとされています。
また、オトギリソウの葉には赤い色素毒があり、紫外線にあたると毒性が現れ、皮膚炎などを惹き起します。
したがって、ミズオトギリにもオトギリソウと同様な薬用成分が含まれていると考えられ、有毒である恐れが強い。

■似たものとの区別・見分け方
多摩丘陵には、ミズオトギリに似たものはありません。

なお、別属ですが、近縁のオトギリソウの仲間(オトギリソウ属)では、みな互いによく似ています。全て花色が黄色なのでミズオトギリとは容易に区別できます。
植物学的には、明点や黒点(油点)の種類や葉内部の分布のしかたで最終的には分類されるので、オトギリソウの仲間は一般には区別が困難な種類です。また、地域的な固有種や地域的変種も多いので、余計に難しくなっています。

ただ、トモエソウだけは花弁が巴型なので容易に区別できます。
また、欧州からの外来種で帰化しているコゴメバオトギリが鶴見川水系の堤防などに時々見られますが、葉が大変小さく、長さ1.3cmほどしかないことで容易に区別できます。

なお、コケオトギリでは、花(径5mmほど)や葉がとても小さいので、そのことでだいたい判断できます。最終的には「コケオトギリ」には、オトギリソウ属には普通な「黒点」がなく「明点」しかないことで区別します。「コケオトギリ」は、そのことからオトギリソウとは別属(ヒメオトギリ属)に分類されることが普通です。    
  
写真は「花と花穂」、「花」、「葉と花」
と「葉」の4枚を掲載
ミズオトギリ
ミズオトギリの花と花穂
ミズオトギリ
ミズオトギリの花
ミズオトギリ
ミズオトギリの葉と花
ミズオトギリ
ミズオトギリの葉