コケオトギリ(苔弟切)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

コケオトギリ(苔弟切) オトギリソウ科ヒメオトギリ属
学名:Sarothra laxa

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■特徴・分布・生育環境
多摩丘陵では稀少種になっています。
2013年現在、限られた場所に少ない個体数しか確認できていません。
ただ、生育に適した湿性のある場所が減っていて、里山では草刈が入ることも影響していると思われます。
東京都の中島氏からお知らせいただき自生を確認できました。
  
草丈10cm〜20cm、時に30cmほどになる1年草で、細い茎をほぼ直立させて上部で枝を分けます。

夏〜初秋に、茎頂に数個の径5mmほどのとても小さな黄色の5弁花をつけます。
花は、午前中でお昼頃には花被片の先から萎んできます。
花にはオシベが多く目立ちます。図鑑などでは、コケオトギリの雄蕊の数は6〜10本とされているのが普通ですが、これは記載の誤りであることを最近知りました。実際には10数本以上はあります。

葉は、長さ約5mm〜10mmほどのとても小さ卵状楕円形で葉先は通常は円形です。

オトギリソウの仲間には葉や花に「明点」(明るい小さな点)や「黒点」(黒い小さな点)(油点)があるのが特徴ですが、オトギリソウでは、葉に密に黒点があり、葉の縁にも黒点が並びます。
これに対して、コケオトギリやヒメオトギリには、オトギリソウ属では普通な「黒点」がないことで別属(ヒメオトギリ属)とされます。

千葉県以西の各地から東アジア、豪州などに広く分布します。
多摩丘陵では、上述のように稀少種になっていて、2013年現在では出会うことは稀になっています。

■名前の由来
「苔」は、花や葉がとても小さいことを、コケになぞらえたものである、というのが一般的です。
「弟切草」とは物騒な名前ですが、昔、秘密の薬草を用いて鷹の傷を治すことで有名な鷹匠(たかしょう)の兄弟がいましたが、ある時、弟がその薬草の名を漏らしたことに怒った兄がその弟を切り殺してしまったという伝説があります。その時の血しぶきがオトギリソウにかかって油点になったとされています。

■文化的背景・利用
江戸時代の貝原益軒による「大和本草」、あるいは「和漢三才図絵」などの本草書にオトギリソウの名が現れています。
知られた詩歌や文芸などには、オトギリソウの名は現れていないようです。
コケオトギリの名では、いずれにも現れていないようです。

■食・毒・薬
オトギリソウは薬草としてよく知られていて、神経痛、リュウマチ、痛風などの鎮痛や月経不順などの内用薬・浴用薬、打ち身や外傷の外用薬に効能があるとされています。
葉に赤い色素毒があり、紫外線にあたると毒性が現れ、皮膚炎などを惹き起します。
したがって、コケオトギリにも同様な毒性があると思われます。

■似たものとの区別・見分け方
オトギリソウの仲間(オトギリソウ属)は、みなよく似ています。
植物学的には、明点や黒点(油点)の種類や葉内部の分布のしかたで最終的には分類されるので、オトギリソウの仲間は一般には区別が困難な種類です。また、地域的な固有種や地域的変種も多いので、余計に難しくなっています。

このコケオトギリヒメオトギリでは、花や葉がとても小さいので、そのことでだいたい判断できます。最終的には、上述の通り「黒点」がないことで判断します。
図鑑などでは、上述の通り、コケオトギリではオシベの数が6〜10本で、ヒメオトギリでは10〜20本などとされていますが、この記載は誤りでオシベの本数では判断できないことを最近知りました。

また、コケオトギリの葉は広卵型、ヒメオトギリの葉は三角状卵型などとされますが、葉の形は広い意味でともに卵状楕円形で葉の形での区別もまず無理です。

この2種の区別は、花のやや下に付く苞葉(茎に下から行儀よくつく葉の最上部の葉)が、コケオトギリでは茎葉と同じ卵状楕円形であるのに対して、ヒメオトギリでは線形であることで区別できます。

なお、トモエソウだけは花弁が巴型なので容易に区別できます。

また、欧州からの外来種で帰化しているコゴメバオトギリが鶴見川水系の堤防などに時々見られますが、花は径2cmほどと結構大きいのですが葉が大変小さく長さ1.3cmほどしかないことで容易に区別できます。    
  
写真は「花」、「茎葉と花」と
「萎み始めた花(お昼頃)」
の3枚を掲載
コケオトギリ
コケオトギリの花
コケオトギリ
コケオトギリの茎葉と花
コケオトギリ
萎み始めた花
(お昼頃)