カラムシ(苧、苧蒸または苧麻)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

カラムシ(苧、苧蒸または苧麻) イラクサ科カラムシ属
学名:Boehmeria nivea
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■特徴・分布・生育環境
高さ1m前後の比較的大型の多年草です。
日当たりの良い草地や小道脇などに自生します。

葉は長さ8cm前後で広卵型で葉先は尾状に伸びています。葉裏に白い綿毛が密生していて真っ白なのが特徴です。
花は初秋に(時に晩夏から)つけ、茎頂でなく、茎のなかほどの葉腋につき、小さな黄緑色で目立ちません。
  
本州からアジア東部〜南部に分布し、またしばしば植栽されています。
多摩丘陵では、人里周辺に時々見られます。
人の住む地域周辺に自生していることから遠い昔に持ち込まれたものであるという説もあります。

■名前の由来
「苧(オまたはカラムシ)」は「麻のような繊維」を意味し、茎(カラ)を蒸して繊維をとったことから「カラムシ」となったというのが一般的です。
麻の繊維からとった麻糸に対して,カラムシからとった繊維を「麻苧」(マオ)あるいは「真苧」(マオ)などと呼ぶようです。

「カラムシ」は、平安時代初の本草書「倭名類聚抄」に、「苧(お)」として「加良無之(からむし)」が現れているので、それ以前から知られていたと考えられます。
江戸時代の本草書「本草綱目啓蒙」に「苧麻、カラムシ、マヲ・・・」が現れており、また別名(あるいは地方名)として「苧(お)」、「苧麻(ちょま)」、「青苧(あおそ)」や「真苧(まお)」などが知られています。

■文化的背景・利用
古い時代から、この仲間(カラムシ属)の植物は衣服の重要な繊維材料として利用されてきましたが、木綿の普及以降はほとんど顧みられなくなってきています。

カラムシが普通ですが、この仲間(カラムシ属)の植物の茎を蒸して皮をむき、表皮の内側にある繊維を取り出して利用します。

日本書紀に、当時の天皇がカラムシの栽培を奨励したといった記述があります。
万葉集にもこの仲間が詠われています。
「人言(ひとごと)の 繁(しげ)きによりて 真苧薦(まおごも)の 同じ枕は 吾(わ)は纏(ま)かじやも」
この歌の「真苧薦(まおごも)」は、「真苧(まお)」の「薦(こも)」で、「薦」は「ムシロ」あるいは「ゴザ」のことです。

上述の通り、平安時代に入る頃には「カラムシ」の名は広く知られていて、その別名のひとつであるこの「真苧(まお)」の名も一般的に知られていたようです。
今昔物語や、上述の通り多くの本草書にもカラムシの名が現れています。

カラムシ(の仲間)の繊維で織った布を上布(じょうふ)と呼び、現在でも越後(越後上布・小千谷縮布)、宮古(宮古上布)や石垣(八重山上布)が知られています。
ただし、上布は本来は良質な麻織物を意味しますが、それに似た布も上布と呼ばれたようです。なお、上布は朝廷などに上納する布を意味しています。

なお、「麻」は種としての「アサ」を意味することもありますが、繊維材料を採取できる植物の総称としても使われています。
・アマ科アマ属の「亜麻」(繊維製品は通称リネン)
・シナノキ科の「黄麻」(繊維製品は通称ジュート)
・アサ科カンナビス属の「麻」または「大麻」
・イラクサ科のカラムシやアカソ(赤麻)
などです。
また、リュウゼツランなどから採取する繊維による「サイザル麻」なども知られています。

■食・毒・薬
この科(イラクサ科)を代表するイラクサの仲間(イラクサ属)では、その葉と茎に刺毛があり蟻酸を含み触ると痛みと痒みが残ります。
その一方で、ミヤマイラクサの葉は「アイコ」と呼ばれ、よく知られた山菜です。イラクサの葉も飢饉などの際には食用にされたようです。
しかし、カラムシの仲間(カラムシ属)では、毒性は確認されていないようです。また、薬用にも食用にもされないようです。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(カラムシ属)は、互いに似ていて見分け難いところがあります。

カラムシは、葉裏が真っ白であることで容易に区別できます。

しかし、仲間(同属)のアカソ、コアカソ、クサコアカソ、ヤブマオやメヤブマオはよく似ていて区別が難しい種類です。
また、これらの種間では中間的な形質を示すことがあるので注意が必要です。

アカソでは葉先が三深裂していることで区別します。
また、普通は茎や葉柄が赤味を帯びるのが特徴です。

コアカソは矮小な木本です。

クサコアカソは、アカソの変種です。草姿はアカソに似ていますが葉先は3深裂せず尾状に長く伸びています。

ヤブマオでは、葉身は卵円形で葉先は鋭三角形状です。葉縁には鋸歯(ギザギザ)がありますが、葉が大きいのでそれほど目立ちません。
茎や葉柄が淡く赤味を帯びることがありますが、アカソ(やクサコアカソ)のように明瞭ではありません。

メヤブマオは、草姿や花穂はヤブマオによく似ていますが、葉が違います。
メヤブマオでは、ヤブマオとは異なり葉先は3浅裂しています。ただ、アカソのように深く裂れ込んではいません。
また、葉縁の鋸歯(ギザギザ)はヤブマオよりも大きく粗くて目立ちます。大型の鋸の歯のような見た目です。    
  
写真は「葉と花」、「茎と花」と
「葉と葉裏」の3枚を掲載
カラムシ
カラムシの葉と花
カラムシ
カラムシの茎と花
カラムシ
カラムシの葉と葉裏