イヌショウマ(犬升麻)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

イヌショウマ(犬升麻) キンポウゲ科サラシナショウマ属
学名:Cimicifuga japonica

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■特徴・分布・生育環境
草丈20cmほどで、花時には花穂を立てて高さ60〜90cmほどになる多年草です。
半日陰になる林縁や疎林の林床に生育します。

初秋〜秋の初めに、長さ20〜30cmにも及ぶ細長い花穂をほぼ垂直に立て、小さな花をびっしりとつけます。

小さな花には花柄はなく、長さ1cm前後の花柄がある後述する仲間のサラシナショウマとのよい区別点になります。

葉は、2〜3出(2から3回葉軸が枝分かれする)の三出複葉(3枚の小葉に分かれている))で、小葉は長さ6cm前後の卵型ですが、しばしば3浅裂〜中裂し、葉の縁には不揃いな鋭い鋸歯(葉の縁のギザギザ)があり、葉先は鈍三角形状で、時に鋭三角形状です。   
本州の特産種で、関東〜近畿にかけて分布します。
多摩丘陵では、2003年にある場所で確認して以降は確認できていませんでしたが、2013年に横浜の唐澤氏からお知らせいただき、ある森で数個体の自生を確認できました。自生地は少なく個体数も少ないので地域絶滅が危惧されます。。

■名前の由来
若葉を茹でて水に晒して食用にするサラシナショウマに似ていて異なるので「似て非なるもの」の「非(イナ)」から転訛してイヌショウマとなったようです。
しばしば「イヌ」の名がつけられた植物の名は「役に立たない」ことから「イヌ(犬)」であるという説明がなされますが、古来「犬」は狩猟や牧羊など有用な存在であったことから疑問があります。
「升麻(しょうま)」は、葉が麻に似ているとしてつけられた中国での薬用名です。

■文化的背景・利用
知られた詩歌や文芸等にはその名は現れていないようです。
平安時代の「本草和名」や「倭名類聚抄」に「升麻」が現れていますが、「和名 止利乃阿之久佐(とりのあしぐさ)」とされているため、サラシナショウマとは全く別種のユキノシタ科のトリアシショウマであろうとされています。
江戸時代の「本草綱目啓蒙」や貝原益軒による「大和本草」に「升麻」の名が現れていますが、当時はトリアシショウマなど花穂が似たものを区別していなかった可能性があります。

■食・毒・薬
仲間のサラシナショウマの根茎を乾燥させたものが生薬「升麻」で、解熱や解毒などに効能があるとされています。ただ、イヌショウマは利用しないようです。
有毒なものがほとんどのキンポウゲ科には珍しく、仲間のサラシナショウマは上述のように若い葉を茹でて水に晒して食用にしますが、イヌショウマは食用にはしません。

■似たものとの区別・見分け方
このような花序を持つ草本は多く、「ショウマ」の名もよくつけられるので区別するのにとても苦労します。

このキンポウゲ科のサラシナショウマイヌショウマも花序は似ていますが、花茎が多くの場合枝分かれしないこと、枝分かれしても横には広がらないことで他とは区別できます。

サラシナショウマとこのイヌショウマでは、サラシナショウマの小さな花には明瞭な花柄があるのに対して、イヌショウマでは小さな花には花柄がないことで区別できます。また、慣れないとかなり困難ではありますが、サラシナショウマでは葉の縁の鋸歯(葉の縁のギザギザ)が欠刻状でやや深く葉に裂れ込むのに対して、イヌショウマでは、鋸歯は鋭く粗いのですが、それほど深く葉に裂れ込みません。
さらに、サラシナショウマでは花茎に葉がありますが、イヌショウマでは地際の葉だけです。

仲間(同属)のオオバショウマは山地に自生し、名の通り葉が長さ20cm近くと大きく、花穂の花が少なくまばらに見えます。 ,br>
山地に自生する近縁(ルイヨウショウマ属)のルイヨウショウマは、葉がサラシナショウマに似ている(類葉)のでこの名がありますが、花穂が5〜10cmほどと短いことで容易に区別できます。
オオバショウマもルイヨウショウマも多摩丘陵では未確認です。

ユキノシタ科のアカショウマ、チダケサシトリアシショウマも花序の様子が似ていますが、花序の花茎の下部から上部に向かって順に枝分かれさせ枝分かれした花茎の周囲に小さな花をつけ、全体として円錐塔状の花序になることで区別できます。
また、トリアシショウマでは花序が枝分かれした後さらに枝分かれすることでチダケサシと区別できます。

根が赤いことから「赤」の名があるアカショウマは、チダケサシの花序によく似ていますが花序の一番下で枝分かれした花茎が長いこと、また下向きに湾曲することがほとんどであること、また葉先が尾状になっていることでチダケサシとは区別できます。

バラ科のヤマブキショウマは、葉がヤマブキに似ているという名ですが、葉で似た花序を持つ上記の植物と区別するのは難しいものがあります。
ヤマブキショウマでは枝分かれした花序の全ての長さがほとんど同じで、花序が円錐塔状ではなく、どちらかと言うと放射状に見えることで区別できます。見た印象もだいぶん違います。
アカショウマもヤマブキショウマも多摩丘陵では未確認です。    
  
写真は「花」、「咲き始めの花」と
「根生葉」の3枚を掲載
イヌショウマ
イヌショウマの花
イヌショウマ
花(咲き始め)
イヌショウマ
イヌショウマの根生葉