ヤマコウバシ(山香し)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ヤマコウバシ(山香し) クスノキ科クロモジ属
学名:Lindera glauca

| 総索引へ戻る |
写真一覧表の| 早春へ | 春へ | 夏へ | 初秋へ | 秋へ | 冬へ |
| トップページへ戻る |
■特徴・分布・生育環境   
樹高3〜5mほどの落葉低木で、幹は普通叢生します。雌雄異株です。
樹皮は茶褐色でなめらかです。

春早くに、葉の展葉と同時に、径3mmほどのとても小さな淡緑黄色の雌花を枝先の葉腋に房状に多くつけますが、ほとんど目立ちません。
日本には雌株しかなく、それでも結実するという不思議な樹木です。

葉は互生(互い違いにつける)し、長楕円形で、葉先も基部も三角形状です。
葉はやや厚くて硬く、葉縁は全縁(葉の縁にギザギザがない)で、やや波打つのが特徴です。
果実は、径7mmほどの球形でややまばらにつけ、秋に黒く熟します。

樹皮などに芳香のある精油成分が含まれていて、枝を折ったり、葉をちぎったりすると良い香りがします。

葉は秋に黄葉しますが、枯れた葉は翌年の春までそのまま落葉せずに残るのが特徴です。知らないと枯れ木に見えます。

この仲間(クロモジ属)では、冬芽が、垂直に立った細い紡錘型の「葉芽」の左右に球形の「花芽」を斜め上方に湾曲した柄の先につけ、独特の形状ですが、ヤマコウバシだけは葉芽と花芽は分かれていません。

関東地方以西の本州以西から朝鮮半島・中国大陸に分布します。
多摩丘陵では時々見かけますが、個体数は少ないようです。

■名前の由来
枝を折ったり、葉をちぎったりすると良い香りがするので「香し」で、山地に生育するという意味で「山」となったようです。ただし、里山にも自生します。

■文化的背景・利用
昔は、若い葉を乾燥して保存し、救荒食として熱湯で戻して食用にしたようです。
知られた詩歌や文芸、あるいは本草書にはその名は現れていないようです。

■食・毒・薬
有毒であるという報告も、薬用にするという報告もないようです。昔は、上述のように若葉を救荒食としたようですが、今は食用にはしないようです。

■似たものとの区別・見分け方
クロモジの仲間(クロモジ属)には、早春に淡黄色の花を房状につけるものが普通で、春先の雑木林を色どります。

しかし、このヤマコウバシでは、花はとても小さくて緑色が強いので目立ちませんし、葉などにもこれといった特徴はありません。葉が冬になって枯れても、翌年の春までそのまま残っているのが大きな特徴です。

クロモジは、早春に葉の展葉と同時に淡黄色の小さな花を房状に多くつけます。

クロモジに似たダンコウバイアブラチャンは、クロモジと同じように早春に淡黄色の花を花序に束生させますが、早春の花時には葉は展葉していません。
なお、アブラチャンとダンコウバイでは、アブラチャンの花序には短い柄(枝)がありますが、ダンコウバイでは花序に柄(枝)はなく花序が枝に直接ついているように見えることで区別できます。また、花が終わる頃に出る葉はアブラチャンでは普通の単葉ですが、ダンコウバイでは葉先が浅く3裂しているのが普通ですが単葉もあるので注意が必要です。

他の仲間のシロモジは中部地方以西、カナクギノキは箱根以西に分布するので、多摩丘陵には自生はありません。
   
  
写真は「葉」、「翌春までそのまま残る枯れ葉」、
と「幹」の3枚を掲載
ヤマコウバシ
ヤマコウバシの葉
ヤマコウバシ
ヤマコウバシの翌春までそのまま残る枯れ葉
ヤマコウバシ
ヤマコウバシの幹