■特徴・分布・生育環境
花の形態からは想像できませんが、ケシ科の草本です。半日陰になる林縁や疎林内に生育します。全草に有毒成分を含みます。
草丈5〜10cmほどの小型の多年草です。全体に繊細な印象があり、茎は細くてしばしば斜上します。
春に、長さ数cmほどの花序を茎頂に出し、長さ2cmほどの筒状の細長い花を数個から5〜6個つけます。
花色は淡紅紫色から青紫色です。多くの場合、筒の部分が白色を帯びます。4裂する花冠は平開し、花冠の花被片が目立ちます。
葉は、長さ7cm前後ですが、2回3出複葉(葉軸が三つに分かれその先にさらに三つの小葉をつける)で、小葉はさらに3裂するのが普通で、細かい裂け目はなく裂片は狭楕円形です。ただ、葉には変異もあるようで、小葉の裂片は線形に近いものから卵円形になるものもあるようです。
本州以西から朝鮮半島・中国大陸東北部に分布します。
多摩丘陵では、2010年以降は確認できておらず、地域絶滅が危惧されます。
しかしながら、2015年にある谷戸で、少ない個体数ですが自生を確認できました。
■名前の由来
「エンゴサク」とは変わった名前ですが、中国名(漢方薬名)の「延胡索」を日本語読みしたもののようです。「ヤマ」は山地に生育するという意味です。
■文化的背景・利用
知られた詩歌や文芸などにはその名は現れていないようです。
江戸時代の「本草綱目啓蒙」などにその名が現れています。
■食・毒・薬
ケシ科の植物はほとんどそうですが、全草に有毒成分を含みます。誤って食べると嘔吐などを惹き起します。
塊茎を乾燥したものが生薬「延胡索」で鎮痛などに効能があるとされます。
ただ、アゲハチョウ科のウスバシロチョウの幼虫にとっては食草です。したがって、ウスバシロチョウも有毒です。
■似たのものとの区別・見分け方
●この仲間(キケマン属)を代表するキケマン(黄華鬘)は、本州中国地方以西に分布するツクシキケマンの変種とされ、関東以西に分布します。名の通り、花色が黄色です。
○ムラサキケマンは、大型で草丈30〜50cmになり、花も穂状の花序(総状花序)に数多くつけます。花色は紅紫色です。普通は確認できませんが、以下の3種とは異なり地下に偏球形の塊茎はありません。多摩丘陵では最も普通に見かけます。
●地下に偏球形の塊茎がある以下の3種は、小型で繊細な草姿で相互にとてもよく似ています。それに、花色にも変異があって、花色での区別も困難です。
○ヤマエンゴサク(山延胡索) では、花柄の基部の小さな苞葉の縁に欠刻(裂け目)がある(櫛の歯状)のが特徴です。
○ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索) では、花柄の基部の小さな苞葉は葉先が三角形状の卵型で、縁は全縁(葉の縁にギザギザはない)です。
○エゾエンゴサク(蝦夷延胡索) では、花柄の基部の小さな苞葉は葉先が三角形状の狭楕円形で、縁は全縁(葉の縁にギザギザはない)です。 ただ、この苞葉に稀に欠刻が入ることもあるようです。
この苞葉が全縁であることでジロボウエンゴサクに似ていますが、ジロボウエンゴサクの苞葉よりも明らかに細長いことで区別します。
一般に、エゾエンゴサクでは、花穂につける花の数が多いとされますが、これも個体によっては少ないことがあります。
なお、通常は、エゾエンゴサクは東北地方の日本海側〜北海道に分布するとされます。多摩丘陵では未確認です。
なお、植物学的には、ヤマエンゴサクとエゾエンゴザクでは地下の塊茎から1本の花茎を出すのに対して、ジロボウエンゴサクでは地下の塊茎から数個の花茎と数個の根生葉を出すことで同定します。
●花色が黄色のキケマンの仲間には似たものが多く、一般には区別は困難です。いずれも多摩丘陵では未確認ですが、分布域的には1970年以前には自生していた可能性はあります。
○キケマン(黄華鬘)では、長さ3cm前後の果実が細い披針形で数珠状にはなりません。
○ミヤマキケマン(深山黄華鬘)では、果実は長さ3cmほどの細長い棒状で、著しく数珠状になります。
○ヤマキケマン(山黄華鬘)では、花が緑色を帯びた黄色なのが特徴で、果実は長さ3cmほどの棒状ですが著しく屈曲します。
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写真は「花」と 「苞葉」(花柄の基部に欠刻のある小さな苞葉) の2枚を掲載 |
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ヤマエンゴサクの花 |
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苞葉 花柄の基部に欠刻のある小さな苞葉 |
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