| ■特徴・分布・生育環境
この仲間（キケマン属）で、花色が黄色のものは互いによく似ていて見分け難い仲間です。見分け方は後述の通りです。 関東地方の平地〜低山地に分布するのは以下の三種です。 ・このミヤマキケマンは、中部地方以西に分布するフウロケマン（Corydalis pallida）の変種（var. tenuis）とされます。 ・キケマンは、中国地方以西に分布するツクシキケマン（Corydalis heterocarpa）の変種（var. japonica）とされます。 ・ヤマキケマンは、低山地に自生することが多く、関東地方以西から中国大陸〜インドにかけて分布します。 この仲間（キケマン属）は、基本的に全草に有毒成分を含みます。 ミヤマキケマンは、名は「深山（みやま）」ですが、特に深山に生育するというわけではなく、低山地から丘陵地に生育します。 草丈２０ｃｍ前後、しばしば５０ｃｍほどの越年草です。茎はやや斜上し円形です。 晩春から夏に、長さ１０ｃｍ前後の穂状の花序（総状花序）を茎頂に出し、長さ２ｃｍほどの筒状の細長い花をやや密に多くつけます。 花色は黄色で、花冠は余り開きません。 葉は、長さ１０ｃｍ前後、１〜２回羽状複葉（葉軸の左右に小葉を並べる）で、小葉はさらに深裂し欠刻も入るので全体に細かく裂けているように見えます。 果実は長さ３ｃｍほどの細い線形で著しく数珠状にくびれています。 本州の近畿以東に分布します。なお、基本種のフウロケマンは本州の中部地方以西から九州に分布します。 多摩丘陵では、１９８０年頃以降では確認できていません。ただ、分布域的には、それ以前には自生していた可能性があります。 ■名前の由来 舌を噛みそうな名前ですが「黄」色の「華鬘（ケマン）」草の意味で、ケマンソウに似ているという命名です。 ただし、それほど似てはいません。「ミヤマ」は「深山」を意味していますが、上述のように特に深山に生育するわけではなく、低山地から丘陵地に生育します。 なお、ケマンソウは室町時代に観賞用に渡来したとされるコマクサの仲間（同属）で、斜上する花茎に紅紫色の２枚の花弁とさらに花先に２枚の白色の花弁を出すやや扁平で細長い壺型の花を、茎に沿って多く吊り下げます。 花の形態を仏殿に飾る仏具「華鬘（ケマン）」に見立ててこの名があります。 ただし、華鬘は、通常は、鳳凰や花などの透かし彫りを施した平らな盾型の装飾用仏具で仏殿の長押（なげし）などに吊り下げられます。 ケマンソウの花には余り似ていません。 ■文化的背景・利用 知られた詩歌や文芸などにはその名は現れていないようです。 また、キケマンなども含めて江戸時代の本草書にもその名は現れていないようです。 ■食・毒・薬 ケシ科の植物はほとんどそうですが、全草に有毒成分を含みます。誤って食べると嘔吐、昏睡、呼吸麻痺や心臓麻痺を惹き起して危険です。 もちろん食用にはできませんので注意が必要です。 ■似たものとの区別・見分け方 ●この仲間（キケマン属）を代表するキケマン（黄華鬘）は、本州中国地方以西に分布するツクシキケマンの変種とされ、関東以西に分布します。名の通り、花色は黄色です。 ムラサキケマンに草姿や花の様子が似ていますが、ムラサキケマンでは花色が紅紫色なので、花色が黄色のミヤマキケマン、キケマンやヤマキケマンとは容易に区別できます。 ●花色が黄色のキケマンの仲間にはよく似たものが多く、一般には区別は困難です。いずれも１９７０年頃以降では多摩丘陵では未確認ですが、分布域的にはそれ以前には自生していた可能性はあります。 ○キケマンでは、葉の細かく裂けた裂片の幅が広く丸みを帯びているように見えます。また果実が長い３ｃｍ前後の細い披針形で数珠状にはなりません。 ○ミヤマキケマンでは、葉の細かく裂けた裂片の幅が狭くキケマンとは異なり丸みは感じません。また、果実は長さ３ｃｍほどの細長い棒状で、著しく数珠状になります。 ○ヤマキケマンでは、花が緑色を帯びた黄色であることがよい区別点で、果実は長さ３ｃｍほどの棒状ですが著しく屈曲します。 ●花や花色がムラサキケマンに似たものに、以下のように仲間（同属）のヤマエンゴサク、ジロボウエンゴサクやエゾエンゴサクがあります。ただ、ともに草丈は１０ｃｍ〜せいぜい２０ｃｍほどと小型で、繊細な印象があります。 ○ヤマエンゴサク(山延胡索) では、４裂している花冠は平開していて通常青紫色です。ただし、時に赤紫色を帯びます。ムラサキケマンの花冠は余り開きません。花柄の基部の卵型の小さな苞葉の縁に欠刻（深い裂け目）があるのが特徴です。また、葉はムラサキケマン同様に２回３出複葉ですが、小葉にはムラサキケマンとは異なり細かい裂け目はなく裂片は狭楕円形なので葉でも区別できます。小葉は通常は全縁（縁にギザギザがない）です。 ○ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)では、４裂している花冠は平開していて青紫色から赤紫色を帯びます。ムラサキケマンの花冠は余り開きません。花柄の基部の卵型の小さな苞葉の縁は全縁（縁にギザギザがない）なのが特徴です。 また、葉はムラサキケマン同様に２回３出複葉ですが、小葉にはムラサキケマンとは異なり細かい裂け目はなく裂片は狭楕円形なので葉でも区別できます。小葉は通常は全縁（縁にギザギザがない）です。 ○エゾエンゴサク(蝦夷延胡索) では、花柄の基部の小さな苞葉は葉先が三角形状の狭楕円形で、縁は全縁（葉の縁にギザギザはない）です。 ただ、この苞葉に稀に欠刻が入ることもあるようです。この苞葉が全縁であることでジロボウエンゴサクに似ていますが、ジロボウエンゴサクの苞葉よりも明らかに細長いことで区別します。一般に、エゾエンゴサクでは、花穂につける花の数が多いとされますが、これも個体によっては少ないことがあります。なお、通常は、エゾエンゴサクは東北地方の日本海側〜北海道に分布するとされます。 なお、植物学的には、ヤマエンゴサクとエゾエンゴザクでは地下の塊茎から１本の花茎を出すのに対して、ジロボウエンゴサクでは地下の塊茎から数個の花茎と数個の根生葉を出すことで同定します。 |
| 写真は「花（１）」、「花（２）」と「全体」 の３枚を掲載 |
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| ミヤマキケマンの花（１） |
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| ミヤマキケマンの花（２） |
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| ミヤマキケマンの全体 |