ヤブツバキ(藪椿)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ヤブツバキ(藪椿) ツバキ科ツバキ属
学名:Camellia japonica

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■特徴・分布・生育環境
「椿(つばき)」の仲間は、200種を越える園芸品種が作出されていて、庭や公園などによく植栽されています。
そのせいか見慣れているので、余り珍しいとは思われないのですが、日本に自生している野生種はこのヤブツバキと、その変種とされるユキツバキヤクシマツバキの3種だけです。

このうちユキツバキは、日本海側などの多雪地帯に適応した変種なので、多摩丘陵に自生はありません。またヤクシマツバキは、分布が屋久島や沖縄です。いずれも花や葉などはヤブツバキとほとんど変わりません。

なお、サザンカも仲間で花などがよく似ています。一般には、サザンカは初冬から咲き始め、散る時にはツバキとは異なり花弁がバラバラになって散ります。また、サザンカの葉はやや小さくヤブツバキのような大きい葉はなく、サザンカではヤブツバキとは異なり葉柄は有毛です。

また、サザンカのもともとの自生は中国地方西部以西なので、多摩丘陵には自生はありません。

なお、お茶や紅茶、あるいはウーロン茶の原料のチャノキも仲間ですが中国原産であるとされ、多摩丘陵に自生はありません。チャノキでは、葉の葉脈が凹んでいて見た目でもデコボコした印象があります。

常緑の低木〜小高木で高さ5〜6mほどになります。時に10m近くになるとも言われています。よく枝を分けてこんもりとした樹形になります。   
幹は、灰褐色で滑らかです。

早春から春にかけて、径5〜7cmほどの赤色の5弁花を多くつけます。花弁は平開せず漏斗型です。稀に花色が淡紅色や白色のものもあります。
雄蕊は多数あり、花糸は白色ですが葯が黄色なので目立ちません。ユキツバキでは花糸は黄色です。花は花の形そのままにポトっと散ります。

葉は厚くて硬く、表面に光沢(照り)があります。葉は互生(枝に互い違いにつく)で、大きさはいろいろあり、長さ5〜10cm、幅3〜6cmの長楕円形で、葉先は鋭三角形状です。葉縁には細かい鋸歯(葉の縁のギザギザ)があります。

果実は緑色で径2〜2.5cmの球形、熟すと裂開して褐色の種子を出します。
本州以西の日本各地から朝鮮半島・台湾に分布します。
多摩丘陵では、点々と自生があるようですが、個体数が少なくなかなか出会えません。
ただ、ある地域には比較的個体数が多い谷戸があります。恐らく里山では常緑樹は除伐されることがほとんどなので個体数が少ないものと思われます。

■名前の由来
「つばき」の名は、葉に艶があることから「艶葉木(つやはき)」から転訛したもの、あるいは葉が厚いので「厚葉木(あつはき)」から転訛したなど諸説がありますが定説はありません。いずれにしても古い時代に既に「つばき」と呼ばれていたようです。

漢字名「椿」は、春早くから花を開く木ということで「椿」があてられたもので、中国では「椿(ちん)」は別の樹木を指します。
また、しばしば漢字名として「海石榴(つばき)」が用いられます。

■文化的背景・利用
「ツバキ」は、古い時代から親しまれていたようで、日本書紀のその名が現れているとされています。また、古事記にも「都婆岐(つばき)」が現れています。
733年の「出雲風土記」に「椿」が現れているとされますが、これが「ツバキ」であったかどうかについては異説もあります。

万葉集には9首でツバキが詠われています。
「吾妹子を 早見浜風 倭(やまと)なる 吾がまつ椿 吹かざるなゆめ」などがあります。
これらはこの「ヤブツバキ」あるいはその変種の「ユキツバキ」であるとされています。

16〜19世紀には、日本や中国大陸などに自生していたツバキの仲間が西欧にもたらされ、品種改良によって多くの品種が作出されています。これらは学名(属名)のカメリアをとってしばしば「カメリア」とされています。

文学や文芸にも現れていて、アレキサンドル・デュマ・フィスの小説「椿姫」(原題:La Dame aux camelias)はよく知られています。この後「椿姫」は、舞台化や映画化もされています。
さらに、学名(属名)の「カメリア」は工芸品などを始めとして幅広く冠されています。

日本でも鎌倉時代にはツバキを彫った工芸品が多く作られ1600年初には多くの園芸品種が作出されていて、江戸時代には品種改良がさらに進み200種に及ぶ品種が作出されています。
また、「茶花」としても好まれたようです。

「ツバキ」は、花が散る際に花の形そのままにポトッと落ちるので、しばしば武士はその首が落ちる様に似ているとして椿を嫌ったとされますが、江戸時代に「忌み花」とされた記載はなく、幕末から明治初期の流言であるというのが通説です。事実、江戸城にはツバキが多く植えられていたようです。

種子を絞って得る「椿油」は、高級食用油、整髪料や古い時代には灯りなどの燃料油としても利用されてきています。

ツバキの材は、固く緻密で摩耗に強くて摩り減らないことから印材、工芸品や細工ものに利用されます。
また、古い時代から木灰は日本酒の醸造や染色に利用されてきています。

■食・毒・薬
葉からとった成分は止血剤に利用されます。葉や果実は硬く食用にはなりません。

■似たものとの区別・見分け方
ツバキには多くの園芸品種がありますが、園芸品種のほとんどすべてが重弁花か花弁に白色などの絞りが入っていることで容易に区別できます。    
  
写真は「花(1)」、「花(2)−花糸が白色」、
「葉」と「幹」の4枚を掲載
ヤブツバキ
ヤブツバキの花(1)
ヤブツバキ
花(2)−花糸が白色
ヤブツバキ
ヤブツバキの葉
ヤブツバキ
ヤブツバキの幹