トネアザミ(利根薊)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

トネアザミ(利根薊) キク科アザミ属
別名:タイアザミ(大薊) 学名:Cirsium nipponicum var. incomptum

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■特徴・分布・生育環境
草丈50cmから1mほどになる多年草です。

花は、初秋〜秋に咲きます。
花冠は径3cmほどの淡紅紫色です。多数の筒状花からなっていて花弁(舌状花)はありません。

なお、図鑑などではしばしば「花は横向きに咲く」とされますが、上向きに咲くことも同じくらい多い。
花の総苞(花の基部を形成している沢山の葉状の緑色の苞葉片の集まり)は、口の広いトックリ型です。
「総苞片は開出する(総苞から外向きに大きく開いている)」〜「総苞片は下向きにやや湾曲する」ものまで変異がある。
総苞片がやや下向きに湾曲していればまずトネアザミですが、少し遠めで見た際に開出している総苞の総苞片が目立てばトネアザミです。
似たノハラアザミでは、総苞片の開出は大きくないので、遠目で見ると総苞はやや平滑に見えます。

葉は、根生葉は大きく長さ30cm前後で放射状(ロゼット葉)に地際に広がりますが、花時にはなくなります。
葉は羽状に深く裂れ込み、葉の縁に小さなトゲが多くあり触ると痛い。茎葉も長さ20cmほどと大きく小さなトゲがあります。

本州中北部に分布するナンブアザミ(学名:Cirsium nipponicum)の総苞片のトゲが太くて長い変種(学名:Cirsium nipponicum var. incomptum)です。ただ、中間的なものもあって、両種の区別は曖昧なところがあります。

関東〜東海地方に分布します。海外での分布は不明です。
多摩丘陵では、日当たりの良い草地や林縁に、比較的よく見かけます。

■名前の由来
「アザミ」の名は、古語でアザミの葉のようにちくちく痛いことを「あざむ」と言っていたことから転訛したものというのが通説です。「利根」は、利根川付近に多いとの命名ですが、関東〜東海地方に広く分布します。
別名の「タイアザミ(大薊)」は、全体に大型であるとの命名です。ただ、それほど大きいわけではありません。また、漢名の「大薊」を日本語読みしたものであるという説もあります。

■文化的背景・利用
なお、上述の通り「アザミ」が古語の「アザム」から転訛したという通説の割に、万葉集やその後の多くの古典的な和歌集には詠われていないようです。
江戸時代の小林一茶の句に「花さくや 今十八の 鬼あざみ」がありますが、種としての「オニアザミ」を詠ったものではなく総称としてのアザミに鬼を冠したもののようです。、
近世の詩歌にはしばしば表れていて、「世をいとふ 心薊を 愛すかな」正岡子規や「野薊に 触(さは)れば指(おゆび) やや痛し 汐見てあれば すこし眼痛し」北原白秋などがあります。

■食・毒・薬
アザミの仲間は日本には50種近くが分布していますが、その多くは食用になるようです。
たとえば、春から初夏に咲く後述のノアザミの若い葉も茹でれば葉のトゲは気にならなくなり、和え物やテンプラ等にできます。
ただ、アクが強いのでよく茹でるなどする必要があるようです。

なお、トネアザミは、毒性はないようですが、食用にはしないようです。
また、モリアザミの根は、漬物にして「ヤマゴボウ」として観光地なのでよく販売されています。
漢方では、このトネアザミや、後述するノアザミやノハラアザミなどの全草を天日乾燥したものが生薬「薊(けい)」で、煎じて、利尿剤、解毒剤や止血剤などに利用します。

■似たものとの区別・見分け方
日本には、アザミの仲間(アザミ属)は変種も含めれば50種ほども自生していますが、多くは分布域が限られていて、標高の低い山野や里山に普通に自生するのは以下の4種と(別属ですが)ヒレアザミだけです。

ノアザミは、アザミの仲間には珍しく、春から初夏に花をつけるので、容易に区別できます。また、花の基部の総苞(緑色の葉状の多くの総苞片が密についているトックリ型から筒型の部位)が(僅かに凹凸はありますが)ほぼ平滑で総苞片が開出しないのも特徴です。春に咲くアザミの仲間はこのノアザミだけです。

ノハラアザミでは、花は初秋から秋に咲き、花の基部の総苞(緑色の葉状の多くの総苞片が密についているトックリ型から筒型の部位)のトゲ状の総苞片が斜め上にやや開出しているのが特徴です。したがって、遠目で見ると総苞がやや平滑に見えます。

トネアザミ(別名:タイアザミ)では、ノハラアザミと同様に花は初秋から秋に咲きますが、花の基部の総苞(緑色の葉状の多くの総苞片が密についているトックリ型から筒型の部位)のトゲ状の総苞片が明らかに開出しているのが特徴で、総苞片がやや下向きに湾曲していることも多い。したがって、遠目で見ると総苞片が目立ちます。花は上向き〜横向きに開花するものまで変異があります。
なお、トネアザミは、本州中北部に分布するナンブアザミ(学名:Cirsium nipponicum)の総苞片のトゲが太くて長い変種(学名:Cirsium nipponicum var. incomptum)です。ただ、中間的な形態を示すものあるので区別は結構難しい。

アメリカオニアザミでは、茎・葉や総苞など全草にわたって、長さ2cmほどの多くの鋭くて長いトゲで重武装しているので容易に区別できます。葉の葉軸にヒレがありますが、ヒレアザミとは異なり茎には(連続した)ヒレはありません。
なお、このような鋭いトゲを持つアザミは、日本海側に自生するオニアザミが知られていますが、多摩丘陵には似たものはありません。オニアザミでは葉だけにやや長い鋭いトゲがあります。

○別属(ヒレアザミ属)ですが、ヒレアザミでは、茎などに鋭いトゲを備えた硬い板状のヒレがあることで容易に区別できます。なお、ヒレアザミ属は種子に冠毛がないことで、冠毛があるアザミ属とは別属に分類されます。    
  
写真は「花」、「上向きの花と総苞」
「総苞片が目立つ開花間もなくの小さめの花」
「横向きの花:総苞片がやや下向きに湾曲」
の4枚を掲載
トネアザミ
トネアザミの花
トネアザミ
上向きの花と総苞
総苞片が開出
トネアザミ
開花まもなくの小さめの花
開出している総苞片が相対的に目立つ
トネアザミ
横向きの花と総苞
総苞片がやや下方に湾曲