タマアジサイ(玉紫陽花)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

タマアジサイ(玉紫陽花) ユキノシタ科アジサイ属
学名:Hydrangea involucrata

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■特徴・分布・生育環境
落葉低木で株立ちし高さ1m〜2mほどになります。日本固有種です。

夏後半(多摩丘陵では7月初)には、径1.5〜2cmほどの球形の蕾が目を引き、1ヶ月ほどの間、蕾のままで径3cmほどにもなるのが特徴のひとつです。
また、よく植栽されているアジサイ、ガクアジサイやヤマアジサイが梅雨時(6〜7月初)に開花するのに対して、このタマアジサイでは花期が1ヶ月以上遅く、多摩丘陵では初秋(8月に入ってから)に開花するのも特徴のひとつです。

花は一度に開花せず、蕾が順に割れていくにつれて、少しづつ花がでてきます。蕾を包んでいた苞葉は順に落ちていきます。
また、全体としても、花は一斉に開花せずに蕾と花が混在するのも特徴のひとつです。

浅い皿型の花序(散房花序)に、密に小さな淡紫色の花(両性花)を多くつけ、花序の周囲に花被片(ガク)だけからなるやや大型の白い花をまばらにつけます。
花序の周囲の大型の花を装飾花と呼びます。オシベもメシベもなく、当然ですが果実はできません。
花序は、全体としては径15cm前後になります。

葉は、大きさはいろいろで長さ10〜25cm、幅4〜10cmほどの楕円形で、葉先は鋭三角形状です。葉には細かい鋸歯(葉の縁のギザギザ)が密にあります。また、葉の両面には硬い毛があります。

分類的には、通常ユキノシタ科に分類されますが、近年では「アジサイ科」として独立させる説もあります。

本州(宮城県以南の太平洋側、長野県、新潟県〜福井県の日本海側)に分布します。
多摩丘陵では個体数は多くありません。ただ、横浜市南部から神奈川県南部では普通に見られるようです。

■名前の由来
アジサイの名は、「藍色が集まった」を意味している「集真藍」(あずさい)から転訛したものという説が一般的です。「たま(玉)」は、蕾の球形が目を引くことからです。
漢字名の「紫陽花」は、中国大陸では別種の植物の名であったものが誤ってあてられたもののようです。

■文化的背景・利用
「アジサイ」は万葉集に「紫陽花」として2首に詠われています。しかし、その後の平安時代の古今和歌集、源氏物語や枕草子などには現れておらず、一時代の間忘れられていたような不思議なところがあります。その後再度、平安時代末期、鎌倉時代から江戸時代に入ると多くの文芸や歌に現れています。

また、江戸時代に日本に滞在し「日本植物誌」を著したシーボルトが、花全体が装飾花になる種を学名「ヒドランジア・オタクサ」として記載しましたが、この「オタクサ」がシーボルトの愛した日本人女性のお滝さんに因んだものではないかということで物議を醸したことでも有名です。
なお、この学名はその後、有名な植物学者ツンベルグによって既に別の学名が記載されていたために無効になっています。
  
このような装飾花だけが半球形になる「アジサイ」は、ガクアジサイの(園芸)品種です。ガクアジサイ自身にも多くの園芸品種があります。中国を経て欧州に渡ったガクアジサイが園芸的に改良されたものをセイヨウアジサイと呼び、日本に逆輸入されています。

なお、アジサイの名は、平安時代に編纂された日本最古の辞典とされる「倭名類聚抄」に和名「アズサイ(安豆佐為)」として既に現れています。古い時代にはヤマアジサイとガクアジサイは区別されていなかったという考え方もあります。

「タマアジサイ」としては、和歌や文芸、あるいは多くの本草書には現れていないようです。

■食・毒・薬
余り知られてはいませんが、アジサイの仲間は青酸性の物質を含んでいるために食べると中毒を起こします。
したがって、食用にはできません。危険です。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(アジサイ属)には、10種ほどがあります。

ガクアジサイでは、花序の周囲に装飾花が並びます。また、葉の表面には艶(光沢)があります。
アジサイと呼ぶのはガクアジサイの園芸品種で全体に装飾花で覆われたものの総称です。花色など様々なものが作出されています。
ヤマアジサイは、ガクアジサイの変種とすることがあり、葉の表面に艶(光沢)がなく葉質も薄い。
タマアジサイは、蕾が球形で、弾けるよう花をだします。
ノリウツギでは、花穂(花序)が円錐塔状で、見た目にも縦長に見えます。樹皮の内皮から和紙を作る際の糊を採るのに利用されます。1980年頃までは、多摩丘陵に自生があった可能性があります。
エゾアジサイは、ヤマアジサイの変種とされ、全体に大型で花穂(花序)が倍近く大きい。また、装飾花は淡青紫色です。多摩丘陵に自生はありません。
ガクウツギでは、装飾花の花被片(ガク片)が普通は3枚で大きさが明らかに不揃いです。多摩丘陵では未確認です。
コガクウツギでは、装飾花の数が少なく1〜3個ほどしかありません。多摩丘陵では未確認です。
コアジサイでは、装飾花がありません。多摩丘陵では未確認です。
ツルアジサイでは、名の通りツル性です。装飾花の花被片(ガク)は普通4枚です。

イワガラミは別属(イワガラミ属)で、ツルアジサイ同様にツル性ですが、装飾花のガク片が1枚だけであるのが特徴です。

なお、装飾花が周囲を囲んでいることで花序が似ているカンボク、ヤブデマリやムシカリは、スイカズラ科のガマズミの仲間(ガマズミ属)で、アジサイの仲間とはまったく別種です。
アジサイの仲間では装飾花は普通は4枚の花被片(実はガク)ですが、ガマズミ属では装飾花は5枚で全て花弁からなっていることで基本的に異なっています。
ガマズミ属の装飾花は花弁でできています。したがって、装飾花の基部(底部)を下から見ると微小なガク片があります。
アジサイ属の装飾花はガク弁でできています。したがって、装飾花の基部(底部)を下から見てもガク片はなく、直接花柄に花被片(ガク片)がついています。    
  
写真は「花」、「蕾から顔を出した花(1)」、
「蕾から顔を出した花(2)」、
「若い蕾(まだ基部の葉にやや包まれている)」、
「開花寸前の蕾(基部の葉は開き花茎が長い)」、
「葉」と「全体(花と蕾が混在)」の7枚を掲載
タマアジサイ
タマアジサイの花
タマアジサイ
蕾から顔を出した花(1)
タマアジサイ
蕾から顔を出した花(2)
タマアジサイ
若い蕾
(まだ基部の葉にやや包まれている)
タマアジサイ
開花寸前の蕾
(基部の葉は開き花茎が伸びている)
タマアジサイ
タマアジサイの葉
タマアジサイ
全体(花と蕾が混在)