■特徴・分布・生育環境
「春の七草」のひとつです。ただし、後述するようによく似たものに猛毒のドクゼリがあるので注意が必要です。
草丈20cmほど、花時には70cmほどになる多年草です。水田や水湿地に生育します。
茎は、通常は横に這うように伸び、花時には直立させて傘型に花をつけます。
早春から新葉をつけ始めます。
葉は、2回羽状複葉(葉軸が分岐して各葉軸の左右に小葉を並べる)で、小葉は径2〜3cm前後の菱形状卵型で、小葉には粗い鋸歯(葉の縁のギザギザ)があります。葉には特有の香があるのが特徴です。
晩夏から初秋にかけて茎頂に径10cm前後の傘型(複散形花序)の花穂をつけ、小さな白色の花を多くつけます。
日本各地から北東アジア、インド、オーストラリアに広く分布します。
多摩丘陵では、水田や水湿地などに比較的よく見かけますが、2010年現在では自生地は少なくなってきています。
■名前の由来
若葉が「競り合うように」生育することから「セリ」になったという説が一般的です。
漢字名の「芹」は漢名の「水芹(すいきん)」からのようです。
■文化的背景・利用
平安時代から「邪気を祓い万病を遠ざける」とされ、七草粥(ななくさがゆ)の材料のひとつとされています。
「春の七草」は「芹なずな 御形はこべら 佛の座、すずなすずしろ これぞ七草」
の歌が元になっているというのが定説です。
ただし、この歌がいつ頃誰によってつくられたかは、諸説はありますがはっきりとしてはいません。
万葉集に「丈夫(ますらを)と 思へるものを 刀(たち)佩(は)きて かにはの田居(たい)に 芹(せり)ぞつみける」などの和歌に詠われています。
なお、このような早春の「若菜摘み」は、万葉の時代からの風習であったようです。
源氏物語や枕草子などにもその名が現れています。
また、西行法師による「山家集」に「なにとなく せり(芹)ときくこそ あはれなれ 摘みけん人の 心しられて」などと数歌に詠われています。
江戸時代の芭蕉の句「我ためか 鶴食(は)みのこす 芹の飯」などにもその名が現れています。
現存最古の本草書(薬物辞典)で平安時代初期に編纂された「本草和名」や平安時代の「倭名類聚抄」に「芹」として「和名 世里(せり)」などとその名が現れています。
江戸時代の貝原益軒による「大和本草」や「本草綱目啓蒙」などにその名が現れています。
■食・毒・薬
上述の通り、春の若い葉を、おひたしや和え物などにして食用にします。現在では季節野菜として栽培もされています。
ただし、晩春以降になるとアクが強くなり、食用には適しません。
茎葉を乾燥させたものが生薬「水芹(すいきん)」で、煎じて食欲増進、解熱や神経痛などに効能があるとされます。ただし、毒性も強いので一般での使用は危険です。
■似たものとの区別・見分け方
よく似たドクゼリは別属(ドクゼリ属)ですが猛毒で誤って食べると呼吸麻痺、痙攣(けいれん)や嘔吐などを惹き起して死に至る危険があります。
若い葉はよく似ていて、慣れないと見分けられません。セリの小葉は径2〜3cmほどの菱形状卵型ですが、ドクゼリの小葉は三角形状の長楕円形で、長さは3〜7cmほどもあります。さらに、ドクゼリにはセリ特有の香りがありません。
また、ドクゼリは根がタケノコのように肥大していて節があり緑色をしているのが特徴です(セリはヒゲ根です)。
「5月のセリは摘むな」といった言葉がありますが、晩春にはドクゼリが生育し始めることや、セリもアクが強くなって食用に適さないことを戒めたもののようです。
このように若葉が似ていて一方が食用でもう一方が猛毒なものに、
ニリンソウとトリカブトの仲間
オオバギボウシとバイケイソウの仲間
などがあります。
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写真は「若い葉1」、「若い葉2」 と「花穂」の3枚を掲載 |
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セリの若い葉1 |
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セリの若い葉2 |
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セリの花穂 |
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