多摩の緑爺の
植物文化誌
8月:3.「木綿」や「絹」以前の代表的繊維・布は?
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古い時代に、繊維・布や衣服などはどのようなものであったか興趣が湧きます。
「絹」は、製法自体は弥生時代に伝わっていたようですが、中国製には遠く及ばない品質であったため、その後絹の生産は廃れ、良質の絹の生産が盛んになったのは江戸時代以降であるとされています。
それまでは絹は、中国から輸入されていて貴族などの上流階級のものであったようです。
一方、「木綿」は、一般的に栽培されるようになったのは16世紀の戦国時代からとされていて、それ以降に全国的に普及し、江戸時代に入ると各地に木綿問屋が開かれたとのことです。
「絹」や「木綿」以前には、昔の人々の衣服(繊維や布)は、イラクサ科の「カラムシ(苧蒸または苧麻)」やその仲間から採取した繊維によっていたとされています。
カラムシ、ヤブマオ(藪苧麻)やアカソ(赤麻)等のイラクサ科の植物は古代から衣服の材料として重要な植物であったとされています。
縄文時代の遺跡から出土した糸に使用されていた繊維は総て植物性のカラムシ、ヤブマオやアカソ等であり、木綿等が普及するまでは日本各地で栽培もされていたようです。
また、弥生時代の遺跡からカラムシの繊維による布の一部が発見されています。
「カラムシ」の名は、「茎蒸(カラムシ)または苧蒸(カラムシ)」で、繊維に加工する際に茎を蒸したことによるというのが通説です。
万葉集に、
「蒸し衾(ぶすま) なごやが下に 臥(ふ)せれども 妹(いも)とし寝ねば 肌し寒しも」
と詠われている「蒸し衾(ぶすま)」は、カラムシによる寝具であるとされています。
カラムシは昔は「苧麻(まお)」とよばれていました。「麻」とありますが、狭義の麻(あさ)はクワ科の大麻(タイマ)を指し、広義の麻はカラムシ、ヤブマオ、アカソ等を含めた植物性繊維のことで、カラムシ、ヤブマオやアカソなどは縄文時代から現代まで衣服の材料として利用されてきています。
また、丈夫なので、衣類だけでなく、漁網などにも利用されてきています。
現在でも新潟県の十日町市で江戸時代から織られている伝統的な織物、越後縮は「カラムシ」で織られています。
また、「小千谷縮」の原料は苧麻(ちょま)で、「カラムシ」の古名です。「小千谷縮」は糸に強い撚(よ)りをかけ、布に細かな小さなシワを出す独特の風合いの織物です。
夏から初秋にかけて刈り取って、葉を除いてから蒸し、茎の皮を剥いで専用の道具で繊維質のじん皮を採取します。採取した繊維に撚(よ)りをかけて糸を作ります。
なお、平安時代頃からは「葛(くず)」から採取する繊維で織る「葛布(くずふ)」も衣服として利用されています。
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