多摩の緑爺の植物文化誌
6月:2.和歌「みちのくの 忍ぶもぢずり 誰ゆえに・・・」はネジバナ(別名モジズリ)ではない?

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小倉百人一首の有名な一首、

「みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに」 河原左大臣 源融(とおる)

に詠われている「モヂズリ」は、しばしば「ネジバナ」(捻花)を指すと言われます。
ネジバナ(モジズリ)
確かに「ネジバナ」の別名は「モジズリ」(捩摺)ではあります。
ネジバナ(ラン科ネジバナ属)の花が、花茎にラセン形によじれて付く様子を、身をよじるほどの恋心にたとえたものであるとの解釈です。

しかし、実際には陸奥(むつ)国信夫(しのぶ)郡(現在の福島市内)の特産であった、絹布に捩れるように染色した織物「信夫毛地摺」(しのぶもぢずり)を指しているようです。
植物の色素を布に摺りつけて捩れたような模様をつけた織物で、いわゆる草木染です。

また、万葉集に現れる「ねっこ草」はネジバナであるという説があります。いずれにしても「モヂズリ」の名は使われていません。

この絹織物は、奈良時代から平安時代には朝廷に献上されていたようで、その産地の名前から「信夫毛地摺」と呼ばれるようになったようです。

冒頭の和歌は、一部は異なっていますが古今和歌集に採録されている、

「みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れむと思ふ 我ならなくに」 源融

なので、
平安時代前期という時期を考慮すると、やはりこの「もぢずり」は「信夫毛地摺」を指すと考えるほうが妥当なようです。
「しのぶ」は「信夫」に「忍ぶ」や「偲ぶ」をかけた言葉のようです。
したがって、この和歌は、「信夫毛地摺の模様のように心が乱れる」と解釈するのが正しいようです。

「ネジバナ」の「モジズリ」の別名は、後の時代にネジバナのラセン形の花序をこの織物の捻れたような模様になぞらえたもののようです。
江戸時代には、「ネジバナ」は「モジズリ」と呼ばれていたようです。


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