多摩の緑爺の
植物文化誌
4月:3.「スミレの宝庫、日本」 −万葉の時代から愛されてきた
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日本の春を代表する花のひとつが「スミレ」です。
日本には、この狭い国土に亜種・変種を含めれば70〜80種にもおよぶスミレが自生しています。
スミレは万葉の時代から日本人に愛されていたようで、万葉集に山部赤人の歌として、
「春の野に 菫摘みにと 来し吾そ 野をなつかしみ 一夜寝にける」
と詠われています。
江戸時代にも、松尾芭蕉が、
「山路きて 何やらゆかし すみれ草」
の句を残しています。
山部赤人や芭蕉が心ひかれたスミレは何スミレだったのか、心を動かされます。
本州中部の太平洋側の平野部では、スミレ、ノジスミレ、アカネスミレ、タチツボスミレ、ナガバノスミレサイシン、マルバスミレ、アリアケスミレ、ニオイタチツボスミレ、それにニョイスミレなどが普通に自生しています。
ただ、2010年現在、この30年ほどの間に、タチツボスミレやニョイスミレを除けば、それぞれ個体数を大きく減らしてきています。
芭蕉の場合には「山路来て」ですから、アケボノスミレやサクラスミレなどかもしれません
「菫」と題した国木田独歩の詩があります。
春の霞に誘われて
おぼつかなくも咲き出でし
菫の花よ心あらば
ただよそながら告げよかし
汝(な)れがやさしき色めでて
摘みてかざして帰りにし
少女よ今日も来たりなば
「君をば恋うる人あり」と
スミレには、どこか淡い恋心を誘う風情があるようです。
なお、スミレの名は、大工仕事の「墨入れ」に使う「墨斗(すみつぼ)」に、花の形が似ていることから、というのが一般的です。
「墨入れ」は、墨斗の墨を浸した糸を引っ張っておいて中心をつまんで材木に叩きつけて直線を出す工程のことです。
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