多摩の緑爺の植物文化誌 |
3月:3.「山菜と“かて”もの」 |
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早春は、たらの芽、コゴミやコシアブラなどに代表される山菜採りの季節です。山菜は、香りや味がよく春の味覚として現代でも珍重されています。
最近では、スーパーマーケットでも売られていますが多くは栽培されたもので、味覚としてはやはり野生の新鮮なものには劣るようです。
主として春に、「野生の植物を食べるという習俗」は、奈良時代には既に「春の若菜摘み」などとして「食文化」となっていたようです。
昔は、「春の七草」、すなわち「セリ、ナズナ、オギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ」に限らず、多くの植物を食べていたようです。
万葉集やその後の和歌集にも何首かで「若菜摘む」などと詠われています。万葉集には、
「明日よりは 春菜摘まむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ」があります。
古今集(百人一首に採録)の1首、 「きみがため 春の野にいでて わかな(若菜)つむ 我衣手に 雪はふりつつ」 はよく知られています。
江戸時代には、栽培されているものを「野菜」と呼び、野山で採取するものを「山菜」と呼ぶようになったと言われています。
しかし、現代では、味や香りや歯触りのよいものを「山菜」としています。ただ、ウド、タケノコやフキなどは今日では野菜に近い存在で、栽培もされています。
地方によって異なりますが、セリ、ノビル、ワラビ、ゼンマイ、ニリンソウ、タラの芽、ツクシ、フキノトウ、コゴミ、コシアブラ、ウルイ(オオバギボウシ)やミズ(またはミズナ:ウワバミソウ)は山菜としてよく知られています。
さらに、モミジガサ(山菜名しどけ:キク科)、ミヤマイラクサ(山菜名あいこ)、カンゾウ、ヨメナやソバナ(キキョウ科)、
それに「山でうまいはオケラにトトキ、嫁に食わすはおしゅうござる」と言われるオケラ(キク科)にトトキ(キキョウ科ツリガネニンジン)なども山菜としてよく知られています。
その一方で、「山菜」というよりも「かて」あるいは「かてもの」として食用に供された植物もあります。
「かて」あるいは「かてもの」は「糧もの」の字をあて、主食(コメや五穀など)に混ぜて炊くなどして、飢饉の際に、文字通り救荒食料として量を増やすものであったようです。
地域によっては「かて飯」や「かて粥(かゆ)」の言葉が残されています。
味や香りは二の次といったところです。
代表的なものに「リョウブ」があります。若葉を大量に採って、灰汁でゆでてからよく水にさらして、ご飯に炊きこんでリョウブ飯にしたようです。
決して美味しいものではなかったようですが、背に腹は代えられない、といったところでしょうか。
藩主などがお触れを出して、「かてもの」としてリョウブの植栽を奨励したという記録もあります。
漢字でリョウブに「令法」をあてるのもこういったお触れによるもののようです。
なお、リョウブは日本にはリョウブ科リョウブ属リョウブの1種しか自生はなく、孤独な存在です。
落葉高木で樹皮がサルスベリのように剥がれます。夏に白い小さな花を尾状の花穂にたくさんつけます。
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