多摩の緑爺の植物文化誌 |
11月:2.「蓑虫」 −昔は鳴いた?、枕草子 |
トップページへ戻る
文化誌トップへ戻る
「蓑虫」(みのむし)は、1990年代前半までは「秋の風物詩」でした。後に述べる理由から現在は「蓑虫」は激減していて、ほとんど見かけなくなってしまっています。
清少納言の枕草子に、
「蓑虫、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれも恐しき心あらんとて…、『ちちよ、ちちよ』とはかなげに鳴く、いみじうあはれなり」
とあります。
日本では昔は、ミノムシは鬼の捨て子で、秋風の吹くころになると「父よ、父よ」と、父親を慕って鳴くとされていたようです。無慈悲な親に粗末な着物を着せられたかわいそうな子どもの姿とが重なって見えるからでしょうか。
この「蓑虫鳴く」は、一説には、蓑虫の近くには「チ、チ、チ」と鳴く虫「カネタタキ」がいることが多く、昔は、その鳴き声を蓑虫の鳴き声と考えていた、というものがあります。
江戸時代にも、
「蓑虫の 音を聞きに来よ 草の庵」 芭蕉
の句があります。
ただ、この句は、芭蕉が「枕草紙」を引用して詠ったものであるという説もあります。
ミノムシは秋に蓑(みの)を作るため、俳句では秋の季語となっっています。ミノムシ自体は発声器官を持っていませんが、季語では「蓑虫鳴く」とされています。
ミノムシは身の回りのものであれば葉や枝でなくても蓑を作り上げる性質を利用して、ごく最近までは、色とりどりの毛糸くずや細かく切った色紙の中に幼虫を入れ、色鮮やかな蓑を作って遊びました。子供の遊びとして広く知られていました。
なお、ミノムシ(蓑虫)は、ミノガ科の蛾(ガ)の幼虫で、一般には、その中でもオオミノガ(やチャミノガ)の幼虫を指します。秋になると、細い木の枝や枯れ葉で身の回りに紡錘型の蓑(みの)を作るので蓑虫です。
ただ、夏に羽化して蛾になるのは雄だけで、雌は蓑の中で一生を過ごします。
オオミノガは雑食性で、バラ科、ブナ科やクワ科など多くの科の植物の葉を食草にします。身近な樹木のカキ、ウメやケヤキなども食草とするために、つい最近までは蓑虫が枯れ枝にぶらさがる姿はごく普通でした。
しかし、1990年代の後半には、オオミノガのみに寄生する外来種のオオミノガヤドリバエが広がり、オオミノガは激減するに至っています。
トップページへ戻る
文化誌トップへ戻る