多摩の緑爺の植物文化誌
10月:5.「竜胆(りんどう)」 −古典から野菊の墓まで、知られた薬草

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リンドウ
リンドウの根を天日乾燥したものを生薬で「竜胆(龍膽)」と言い、昔から名の知れた苦み健胃薬です。
「リンドウ」の名は漢名「竜胆(龍膽)」の日本語読みの「りゅうたん」から転訛したという説が一般的です。
江戸時代の「本草綱目啓蒙」に、「リンダウ、龍膽ノ音転ナリ」として現れています。

薬用にされる一方で、多くの歌や文芸にもその名が現れています。
「古今集」に「りうたんのはな」として、

「我やどの はなふみしだく とり(鳥)うたん 野はなければや ここにしもくる」  紀友則

があります。
清少納言の「枕草子」の「草の花は」に、

「りんだうは、えだざしなども むつかしけれど、ことはなどもの みな霜がかれたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし」

として現れています。
近世では、北原白秋の

「男泣きに 泣かむとすれば 龍膽が わが足もとに 光りて居りたり」

などがあります。

15歳の政夫と二つ年上の民子の悲恋を描いた伊藤左千夫の「野菊の墓」にも「政夫が民子を野菊のようだ」と言った後に別の場面で、

「花好きな民子は例の癖で、色白の顔にその(リンドウ)紫紺の花を押しつける。やがて何を思いだしてか、ひとりでにこにこ笑いだした。」 の場面があり、
民子が「政夫さんは何がなしに龍膽(りんどう)の様な風だからさ」

として、「リンドウ」を通して二人の心情が鮮やかに描かれています。

なお、万葉集の「道の辺の 尾花がしたの 思ひ草 今さらさらに なにか思はん」の「思ひ草」が「リンドウ」であるという説がありますが、「尾花(すすき)の下」ということからは「ナンバンギセル」説のほうが有力なようです。


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