コケリンドウ(苔竜胆)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

コケリンドウ(苔竜胆) リンドウ科リンドウ属
学名:Gentiana suquarrosa

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■特徴・分布・生育環境
花時の草丈が5cm〜せいぜい10cm前後の小さな2年草(越年草)です。
2015年に、もと多摩丘陵地域にお住まいだったU氏からご連絡をいただき、ある谷戸の林縁でやっと自生を確認できました。

日当たりのよい丈の低い草地〜芝草地に自生します。少し湿性のある場所を好みます。
基部からよく茎を分けますが、茎の長さが3cm前後で、しかも長さ5mm前後のとても小さな葉が茎の周囲にびっしりと密につくので、普通は茎は見えず、
全体としては、直径5cm前後の半球形に盛りあがった草姿になります。
ただ、やや草丈のある草地などの場合には、茎を立てて花をつけ、茎葉は少ない。

春から初夏にかけて、比較的長い間花をつけます。これは、次々に茎を伸ばして茎頂に花をつけるからです。

花時にもロゼット状の根生葉(長さ2〜3cm)があるとされますが、淡褐色に変色していたり無くなっていることもある。

花は径5〜6mmほど長さ1cm弱と小さい。花の大きさは、この時期の多摩丘陵では普通に見かけるオオイヌノフグリの花をわずかに大きくした程度です。
花径が1.5〜2cmほどあるフデリンドウハルリンドウとのよい区別点になります。写真では花が大きく見えるので、自生地で花を見ても見落とすことがあります。

花色は、淡青色です。花冠は5裂なのですが、各裂片の間に少し短い副片があるので、ちょっと見には10裂しているように見えます。
花茎を立てることもありますが、花茎も花柄もごく短いことも多い。

葉は、根生葉(地際の葉)は、ややロゼット状で、長さ1〜2cm、時に4cmになります。   
茎葉は小さく、長さ5mm前後の卵型ですが、葉の先の方で細くなり先端が針状になっているのが特徴です。

日本各地から北東アジアの温帯から冷温帯に分布します。
多摩丘陵では、点々と数か所で自生の報告がありますが、地域的には稀少種で、自生地は限られています。

■名前の由来
「リンドウ」の名は漢名「竜胆」の日本語読みの「りゅうたん」から転訛したという説が一般的です。
「苔(コケ)」は、「小さくて苔のように地際に咲くリンドウ」の意味であると言われることがありますが、「花を出す直前の新葉が群がる様子が苔のように見える」からという説のほうが説得力がありそうです。

■文化的背景・利用
秋に咲くリンドウは、俳句の秋の季語にもなっているように多くの詩歌に現れていますが、コケリンドウとしては名の知られた詩歌はないようです。

■食・毒・薬
秋に花をつける後述するリンドウの根を天日乾燥したものを生薬で「竜胆」と言い、名の知れた苦み健胃薬です。しかし、コケリンドウは薬用には用いないようです。
毒性は報告されてはいませんが、リンドウが苦み健胃薬にされることから考えると仲間(同属)であるコケリンドウを食べるのは避けたほうがよいと思われます。

■似たものとの区別・見分け方

□春に花をつけるリンドウの仲間:

ハルリンドウは、花時に根生葉(地際の葉:長さ2cmほど)があり、普通は茎が根元付近で分枝して立ち上がるので区別できます。花径は1.5〜2cmほどで花色は青紫色です。また、ハルリンドウは湿性の高い場所に生育します。コケリンドウとは、花径が大きく違うことで容易に区別できます。よく似たフデリンドウとは、生育場所でほぼ区別できますし、フデリンドウには根生葉がありません。多摩丘陵では、2010年現在では、この40年以上の間確認できていません。

フデリンドウは、根生葉(地際の葉)はなく、茎はほぼ直立し、茎葉の数も少ない。花径は1.5〜2cmほどで花色は青紫色です。ただ、花色には変異があり、稀に白いこともある。コケリンドウとは、花径が大きく違うことで容易に区別できます。ハルリンドウとは、ハルリンドウは湿性地に生育し根生葉があることで区別できます。

なお、フデリンドウとハルリンドウとでは、ハルリンドウは茎葉が長さ1cmに満たず、茎に沿ってつくので目立たないのに対して、フデリンドウの茎葉は長さ2cm前後で横に開くので、草姿がかなり違います。

コケリンドウは、全体に小型で、花はフデリンドウやハルリンドウの半分もなく、とても小さいのが特徴です。花径は5〜6mmほどで、同時期に花をつけるオオイヌノフグリの花よりもわずかに大きい程度です。花色は淡青色でフデリンドウハルリンドウよりも花色が淡いのですが、個体変異があるので花色での区別は難しいことが多い。コケリンドウでは、茎葉が長さ5mm前後と小さく密に重なるように多くつくことが多いのも、フデリンドウやハルリンドウとのよい区別点です。

□秋に花をつけるリンドウの仲間:

リンドウは、全体に大型(草丈30cm〜1mほど)なので容易に区別できます。ただ、2010年現在、多摩丘陵ではごくごく限られた場所に少ない個体数しか確認できておらず、地域絶滅が危惧されます。

○リンドウにやや似たアサマリンドウ(朝熊竜胆)は分布が近畿以西です。花冠の上部がややすぼまっていることで、リンドウとは区別できます。。

似た、オヤマリンドウやヨコヤマリンドウなどの他の仲間(同属)は、ほとんど亜高山帯や北地に分布します。    
  
写真は「花」、「花(花茎はごく短い)」、
「花(花茎があるタイプ)」、
「全体(半球形に盛り上がるタイプ)」、
「蕾(小さい上に淡褐色で目立たない)」、
「根生葉(長さ2cmほどの幅広)」と
「新葉(苔のように見える)」の7枚を掲載
コケリンドウ
コケリンドウの花(径5〜6mmほどと小さい)
コケリンドウ
コケリンドウの花
花茎はごく短い
コケリンドウ
コケリンドウの花
花茎がある(2〜3cm)タイプ
コケリンドウ
コケリンドウの全体
半球形に盛り上がるタイプ
コケリンドウ
コケリンドウの蕾(中央)
小さい上に淡褐色で目立たない
コケリンドウ
コケリンドウの根生葉(左下)
長さ2cmほどで幅広
コケリンドウ
コケリンドウの新葉
苔のように見える