コガンピ(小雁皮)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

コガンピ(小雁皮) ジンチョウゲ科ガンピ属
別名:イヌガンピ(犬雁皮) 学名:Diplomorpha ganpi

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■特徴・分布・生育環境
低山地〜丘陵地の日当たりの良い林縁に自生する落葉低木です。
高さは、せいぜい1mほどです。なかほどで枝を分けます。ただ、普通は垂直に立ち上がり横には広がりません。

晩夏〜初秋(多摩丘陵では7月半ば〜8月)に、枝先に数段にわたって穂状に多くの花序をつけます。
花序には小さな花が群がるようにつき、個々の花は細長い筒状(ガク筒)です。
ガク筒は長さ1cm弱で先は4裂して小さく開き(径4mmほど)ます。

花色は白色ですが、時にごく淡く紅色を帯びます。

葉は小さく、長さ3cm前後の長楕円形で葉先は鈍三角形状です。

関東地方以西〜台湾に分布します。
多摩丘陵では、自生はごく稀です。
2015年に、もと多摩地域にお住まいだったU氏からご連絡をいただき、ある谷戸の奥で始めて自生を確認できました。

■名前の由来
「がんぴ」の名は、ガンピを原材料とする「雁皮紙」のことを、古い時代には「斐紙(いし)」と呼んでいて、そこから「紙斐」となり古名「カニヒ」を経て「がんぴ(雁皮)」に転訛したという説があります。ただ、他にもいくつかの説があります。
「こ(小)」は、ガンピよりも葉などが小さいことからです。

なお、「コガンピ」は繊維質が弱いことなどもあって和紙の原材料には適していません。そこから似て非なるものといった意味で「イヌガンピ」と呼ばれます。
漢字名「雁皮」は「がんぴ」の音からの当て字のようです。

■文化的背景・利用
「ミツマタ」や近縁の「ガンピ」、および「コウゾ」は「和紙」の原材料としてよく知られています。

ミツマタは、「ガンピ」の近縁(別属)で、樹皮の繊維が強靭なので、江戸時代には既に和紙の原料として重要な存在だったようです。室町時代に」中国からもたらされた外来種です。
○多摩丘陵にごく稀に自生するコガンピの仲間の「ガンピ」も和紙の原材料として利用されてきています。なお、「コガンピ」は和紙の原材料には利用しません。
「ガンピ」を原材料とする和紙を「雁皮紙」と呼びます。ガンピは繊維質が細く短いので紙質が緻密で紙肌が滑らかであることが特徴です。また、水や虫害にも強く寿命がとても長いのも特徴です。しかし、繊維が細いこともあって漉き難いというのが難点です。
ガンピの仲間(ガンピ属)では、「サクラガンピ」や「キガンピ」も和紙の原材料として利用されます。
○「コウゾ」は、ヒメコウゾとカジノキとの交配品種で、和紙の原材料として有名です。
よく知られた「(本)美濃紙」は、コウゾに少量のミツマタを混ぜて漉(す)いたものです。

「和紙」は、西暦700年代には既に各地で生産されていたと推定されています。原材料としては主に「ガンピ」、「ミツマタ」(室町時代以降)や「コウゾ」が利用されます。
「和紙」には、「本美濃紙」を始めとして、日本各地に100種ほどの「○○紙」とする特産紙があります。
「半紙」、「蛇の目傘」、「扇子(せんす)」、「障子(しょうじ)」、「襖(ふすま)」、「屏風(びょうぶ)」、「提灯(ちょうちん)」など日本の伝統文化に深く根差しています。
和紙は、湿度が高い時には湿気を吸収し、湿度が低くなると湿気を放出する調湿機能があるので、高温多湿な日本の気候に適しています。
明治時代以降には、和紙は紙幣の原材料のひとつとしても利用されています。

和紙は、2014年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。「埼玉県の細川紙」、「岐阜県の本美濃紙」と「島根県の石州半紙」がその対象になっています。ただし、石州半紙は2009年に先行して登録されています。
和紙は、丈夫で1000年は劣化しないとされていて、世界的にも評価が高い。

和紙は、一般的には、「若い枝を蒸して」、「皮をはぎ」、「乾燥させ」、「流水に晒し」、「外皮を剥ぎとって内皮を取り出し」、「内皮を灰汁で煮て繊維質を柔らかくして」、
「流水に浸して繊維質を取り出し」、「繊維質を砕いて水に溶かし」、「トロロ(ネリ)と呼ばれる粘着性の高い成分を加えてよくかき混ぜて」、
「簾(すだれ)状の長方形の器具(簾:す))で漉(こ)して」、「四角形の紙状にして積み重ね」、「重石などで圧っして水分を絞りとり」、「一枚づつ板に張り」、「天日乾燥する」などの多くの工程を経て作られます。
「トロロ(ネリ)」には「アジサイの近縁のノリウツギ(糊空木)」の内皮や「トロロアオイ(アオイ科)」などから採取する粘着性の成分(糊)などを使用します。
なお、外皮は質の悪い原料に混ぜて「塵入り紙」(ちり紙の語源)として利用します。

江戸時代の「大和本草」や「本草綱目啓蒙」などの本草書に「ミツマタ」や「コウゾ」とともに「ガンピ」の名が現れています。しかし、江戸期以前の本草書にはその名は現れていないようです。
ただし、古名としては、古事記、日本書紀や万葉集に「コウゾ」が現れているとされます。
知られた詩歌などには詠われていないようです。

■食・毒・薬
有毒であるという報告はありません。薬用にもしません。食用にはしないようです。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(ジンチョウゲ科ガンピ属)は互いに似ていて見分け難いところがあります。

ガンピは、細い筒状の花(頭花)が花序の先に密に集まってつきます。筒状のガク筒(長さ1cm弱)の先は4裂して小さく開き径4mmほど、花色は淡黄色です。花序はふつう枝先にひとつつきます。
花期は初夏(5月〜6月)です。また、葉の形は、葉先が三角形状の卵型(長さ5cm前後、幅3cm前後)です。
分布は東海地方以西なので多摩丘陵には自生はありません。
和紙(雁皮紙)の原材料です。
コガンピは、個々の花はガンピに似ていますが、花序が枝先に数段にわたって(総状に)多くつきます。筒状のガク筒(長さ1cm弱)の先は4裂して小さく開き径4mmほど、花色は白色(時にわずかに紅色を帯びる)です。
花期は晩夏〜初秋(7月〜8月)です。また、葉の形は、葉先が三角形状の狭長楕円形(長さ2cm前後)です。
ガンピに似ていて、葉などが小型なのでコガンピです。
ガンピとは異なり、和紙(雁皮紙)の原材料にはできないので「イヌガンピ」の別名があります。
サクラガンピは、花が小さく、ガク筒の長さはガンピやコガンピの半分ほど(長さ5mm前後)で、花色は淡黄色です。枝先につく花はまばらです。
花期は晩夏〜初秋(7月〜8月)です。また、葉の形は、ガンピに似ています。「サクラ」の名は、樹皮がサクラの樹皮に似ているという命名ですが、この仲間(ガンピ属)の樹皮は概ねサクラの樹皮に似ています。
分布は箱根山地〜伊豆半島と局所的です。
キガンピは、花や葉はガンピに似ていますが、葉が対生(対になってつく)です。他は互生(互い違いにつく)なので容易に区別できます。
花期は晩夏〜初秋(7月〜9月)です。
分布は近畿地方以西です。多摩丘陵に自生はありません。
和紙の原材料として利用されます。

ミツマタも、よく知られているように和紙の原材料に利用されます。同じジンチョウゲ科ですが仲間ではなく別属です。
個々の花はガンピに似ていますが、花期は早春で花の時期には葉はまだ展葉していません。

コウゾも和紙の原材料として有名ですが、こちらはクワ科で全く別種です。カジノキとヒメコウゾの交配種です。    
  
写真は「花」、「花穂:蕾と花」と「葉と蕾」
の3枚を掲載
コガンピ
コガンピの花
コガンピ
花穂:蕾と花
コガンピ
コガンピの葉と蕾