キヌタソウ(砧草)
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

キヌタソウ(砧草) アカネ科ヤエムグラ属
学名:Galium kinuta

| 総索引へ戻る |
写真一覧表の| 早春へ | 春へ | 夏へ | 初秋へ | 秋へ | 冬へ |
| トップページへ戻る |
■特徴・分布・生育環境
低山地の明るい林床や林縁などに自生する多年草です。
横浜の唐澤氏からご連絡をいただき、ある森の明るい林床で始めて確認できました。

この仲間(ヤエムグラ属)は10種ほどもありますが、互いによく似たものが多く、花や果実が径1〜2mmほどととても小さな草本なので見分け難い仲間です。
ただ、このキヌタソウでは、葉が大型(長さ5cmほどになる、他の仲間はせいぜい長さ2cmほど)なので比較的見分け易い。
また、この仲間は「・・・ムグラ」の名が普通ですが、果実の形態から「キヌタ」とされたとするのが一般的です。

花(果)期には細い茎を高さ20〜40cmほどに直立あるいはやや斜上させます。
茎は分枝せず、茎頂に円錐塔状の花序をつけます。   
葉は、長さ3〜6cm、幅1〜2cmほどで、この仲間では大型です。
葉は茎に4輪生し葉柄はなく、3本の葉脈が明瞭で目立つのが大きな特徴です。
葉の形態は、植物図鑑などでは卵型で先が尖る、などとされますが、実際には葉の基部の幅が少し広く葉先が鋭三角形状に伸びているので細長い葉といった印象です。

花は、晩夏〜初秋(時に秋まで)に円錐塔状の花序(集散花序)に多くつけ、径3mmほどととても小さく白色で花冠は4裂しています。
果実は径2mmほどととても小さく、偏球形で、明瞭な柄(長さ4mm前後)があります。

本州・四国〜中国大陸に分布します。
多摩丘陵では、限られた場所で少ない個体数しか確認できていません。ただ、草陰などにより、見落としている可能性があります。

■名前の由来
小さな果実の形態が布を打つ道具「砧(きぬた)」に似ていることから「キヌタソウ」となったというのが一般的です。
しかし、染色布などを打って伸ばして光沢を出す作業は世界各地にあり、その道具の形態も様々です。
先の方が太い棍棒(バット型)状〜柄がつけられた偏球形〜柄がつけられた太い円柱状のものまで様々な形態があるようです。

このような道具は、縄などを編むために稲藁を打って柔らかくする際にも使用されます。
横方向に使うので、一般的には横槌(よこづち)と総称されています。
なお、砧は、槌のほうではなく、その台の呼び名であるとする説もあります。

日本でも、明治時代初までは、このような作業がよく行われていたようですが、現在では忘れられていて、道具もほとんど残されていないようです。
ただ、和歌などに「衣打つ」としばしば表現されていて、昔は普通に行われ、風物詩となっていたようです。

■文化的背景・利用
この仲間を代表する「ヤエムグラ」は、「拾遺和歌集」に採録されていて「百人一首」にも選ばれている、
「八重葎(やえむぐら)しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり」
の和歌に詠われています。
しかし、この「ヤエムグラ」は、全く別種の「カナムグラ」であるとされています。
事実、ヤエムグラは晩夏には枯れてしまうため、秋として詠われるのには無理があります。

「百人一首」(新古今集)に採録されている有名な和歌、
「み吉野の 山の秋風 小夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり」
の「衣うつ」は、砧によって染色布を打っている音だと考えられています。
この「衣うつ」を詠った和歌は、他の和歌集にもいくつか現れています。
源氏物語にも「白妙の衣打つ砧の音・・・」として現れているとされています。

当然かもしれませんが「キヌタソウ」としては文芸や本草書には現れていないようです。

■食・毒・薬
有毒であるという報告や薬用にするという報告もないようです。
このような場合は、食用にするのは避けるべきです。

■似たものとの区別・見分け方
上述の通り、この仲間(ヤエムグラ属)には互いによく似たものが多く、花や果実が径1〜2mmほどととても小さな草本なので見分け難い仲間です。

この仲間を代表するヤエムグラは、やや荒れた草地などに普通に生育していて、草丈が60〜90cmほどとやや大型で、茎に細かい逆トゲがあることで比較的容易に区別できます。
ヤブムグラは、分布は関東平野南部(千葉県・東京都・神奈川県)に限られる稀少種で、花(果)柄がとても細長いのが特徴です。また、果実に毛がなく表面が平滑なのも特徴のひとつです。
ヤマムグラでは、花(果実)は短い花柄(小花柄)の先に4〜6個ほどをまばらにつけ、普通4枚輪生する葉の長さが同じではなく、長さがやや違っているのが特徴です。果実にはごく短い毛が密にあります。
このキヌタソウでは、草丈がやや大きく、葉も長さ6cm前後にもなる大きなものがあり、特に3本の葉脈が目立つのが大きな特徴です。円錐塔状の花序に白色の小さな花を多くつけます。
ハナムグラもともと個体数は少なく湿性の高い川岸などに生育し白色の花を房状に多くつけます。
オオバノヤエムグラは葉が4〜6枚輪生し茎は1mほどとツル状に長く伸びるのが特徴で、花柄がやや長いので多くつく花はまばらに見えます。なお、茎には逆トゲがまばらにあります。
ヨツバムグラでは4枚輪生する葉が、似た他の仲間よりも明らかに幅広なのが特徴です。花柄(小花柄)がごく短いので数個の花がかたまってついているように見えます。なお、花色は淡黄緑色ですが、白く見えることもあります。
ヒメヨツバムグラでは、葉が他の仲間よりもかなり小さく長さ1cmほどです。
ホソバノヨツバムグラでは、花冠が普通4裂している他の仲間とは異なり3裂しています。
キクムグラは、ヨツバムグラによく似ていますが、花は白色で花柄の先に1〜3個つけるのが特徴のひとつで、さらに花の基部にヨツバムグラとは異なり小さな苞葉があります。
クルマムグラは、葉が6枚輪生していて茎は直立し20〜50cmほどと、ヤエムグラに似ていますが、茎に細かい逆トゲは無いことで区別できます。
(キバナ)カワラマツバは、やや乾いた川原などに生育します。8〜10枚が輪生する葉が細い線形(松葉の名の由来)であることで、他と区別できます。なお、茎には柔らかい毛があります。    
  
写真は「花期の全体」と「葉」の2枚を掲載
キヌタソウ
花期の全体
キヌタソウ
キヌタソウの葉