ヒガンバナ(彼岸花)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ヒガンバナ(彼岸花) ヒガンバナ科ヒガンバナ属
学名:Lycoris radiata

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■特徴・分布・生育環境
花は、秋のお彼岸のころに咲き高さ30cm〜50cmほどで、花時には葉はありません。全草が有毒です。

花は、全体としては径10cmほどもありますが、深紅色の6弁花を10個近く輪生状につけたものです。
花弁は細長い線形で、長いオシベが目立ちます。

葉は花が終わると地上に現れ、葉の中央に白っぽい筋が入る長い(30〜50cm)線形で、春に他の植物が生育してくると地上から姿を消します。
このような生活誌は、他の植物が枯れているうちに他と競争することなく光合成を行う生存戦略であるとされています。

日本に自生するヒガンバナは「3倍体(染色体が奇数なので減数分裂が起こらない)」なので、種子はできません。
地下に鱗茎(球根)があり、この鱗茎の分球によってのみ増えます。鱗茎は径4cmほどにもなり黒っぽい色です。

日本各地に分布し、多摩丘陵では田畑の畔やお墓の周辺などによく見られます。

■名前の由来
文字通り秋のお彼岸のころに咲くのでヒガンバナです。
ただ、マンジュシャゲ、シビトバナや火炎草など別名が非常に多く、万葉集にも現れていることからも昔から人の生活に近い存在であったことを示しています。

■文化的背景・利用
田畑の畔や土手、あるいはお墓のまわりなど人の生活に近い場所でしか見られないことから、人の手によって植えられたものと推定されています。
中国の揚子江流域にヒガンバナの自生があり、2倍体のヒガンバナも自生するようです。
古い時代に渡来した際に、3倍体のものが持ち込まれたのではないかと思われます。

ヒガンバナは全草に強い毒性がありますが、有毒なアルカロイド(リコリン)成分は水溶性なので、鱗茎(球根)を刻むなどして何回も水に晒して有毒成分を取り除きデンプンを取り出せば食べられるので、飢饉などの際の救荒植物として植栽されたという説が有力です。

万葉集に「路の辺の 壱師(いちし:ヒガンバナの古名)の花の いちしろく(目立つこと) 人皆知りぬ 我が恋妻を」があります。

有毒植物なので、有害獣などを遠ざけるためにお墓のまわりに植えられたという伝承もあります。

江戸時代に貝原益軒によって編纂された「大和本草」に現れる「石蒜(せきさん:シビトハナ)」は、ヒガンバナであるとされています。

■食・毒・薬
全草が有毒で、鱗茎に特に有毒なアルカロイド(リコリン)を含みます。誤って食べると嘔吐や下痢、場合によっては中枢神経の麻痺をひきおこして命の危険があります。

上述の通り、径数cmの鱗茎は、黒っぽいい皮をむき、細かく砕いて潰し何回も水に晒して白いデンプンを取り出せば、モチなどにして食用にできます。

漢方では、ヒガンバナの鱗茎を乾燥させたものを生薬名「石蒜(せきさん)」と言い、ムクミや皮膚病に用いるとのことですが、毒性が強いので専門家以外の使用は危険です。

■似たものとの区別・見分け方
花の形態は特有で、似たものはありません。
葉の時期にはヤブランなどの葉に似ていますが、ヒガンバナの葉は少し幅が広く中央に白っぽいすじが入ることで区別できます。    
  
写真は「花」、「全体」と「葉」の3枚を掲載
ヒガンバナ
ヒガンバナの花
ヒガンバナ
ヒガンバナの花期の全体
ヒガンバナ
ヒガンバナの葉