ツルカノコソウ(蔓鹿子草)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ツルカノコソウ(蔓鹿子草) オミナエシ科カノコソウ属
学名:Valeriana flaccidissima

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■特徴・分布・生育環境
陽光が余り入らず、かつ湿生が高い場所に自生します。
したがって、丘陵地の谷戸、すなわち樹木の樹冠が迫っていて、小さな水流があるような谷筋を好みます。

花時には、草丈30〜40cmほどになります。

ただ、春早くに地表に葉を広げ始めるとほぼ同時に中心に小さく花穂(多くの蕾)をつけ、葉を広げるとともに花茎を高くしながら花穂も大きくなります。
最終的に花茎の頂に多くの小さな花を最初は密に開き、間もなく花を散開させていきます。

花穂が蕾の時期には淡紅紫色を帯びていますが、開花すると白色になります。

春の終盤には、綿毛をつけた果実をつけます。綿毛は散漫に広がってもやったような見た目になります。

したがって、観察する時期によって草姿の見た目が異なっています。
生長による草姿の移り変わり以下の通りです。

【草姿の変化の様子】なお、「特徴などの後半」、「名前の由来」、「文化など」、「食・毒・薬」や「似たものとの見分け方など」はこの後記載。
写真は「花穂の開花時の全体」
ツルカノコソウ
写真1:芽生えて間もない時期
ツルカノコソウ
   

葉の両端での径は2〜4cmほど。
中心の花穂(多くの蕾が密に集まっている)は淡紅紫色を帯びている。    
草丈は5cm前後。
写真2:芽生えて少し経った時期
ツルカノコソウ
   

葉の両端で径5〜7cmほど。
中心の花穂(蕾)は少し散開し始める個体もある。
花穂(蕾)は淡紅紫色を帯びている。    
草丈は6〜8cm前後。
写真3:花穂が伸びると一部開花
ツルカノコソウ
   

葉の両端で径8〜10cmほど。
中心の花穂では、一部開花し始める。
花穂(蕾と花)は淡紅紫色を帯びている。    
草丈は10cm前後。
写真4:花穂全体が開花
ツルカノコソウ
   

葉の両端で径10〜12cmほど。
花穂の花は全開。花はまだ密にかたまっている。
花色は白色。    
草丈は15〜20cmほど。
この後も花穂は高く伸び、葉も大きくなる。
写真5:散開した花穂
ツルカノコソウ
   

葉の両端で径12〜15cmほど。
花柄が伸びて花は散開する。
花色は白色。    
草丈は20〜40cmほど。

■特徴などの続き

花期は、(多摩丘陵では)4月後半〜5月初です。
花穂は、ほぼ平ら(散房状)に開きます。時に伏せたお椀状になります。
上記の通り、個々の花は蕾時には淡紅紫色を帯びていますが、開花すると白色になります。

個々の花は小さく、花冠は5裂していて、径2〜3mmほどです。

花穂の全体としては、当初は花が密についていて径5cm前後で、その後には花柄が伸びて花が散開するので径10cmほどになります。

葉は、奇数羽状複葉で頭小葉がやや大きい。小葉は、葉先が三角形状の狭卵型です。
小葉の縁には、ごく浅い波状の鋸歯がまばらにあります。
葉の長さは花時には、全体として5cm前後になります。花茎にも対になった葉をつけます。

なお、よく似た「カノコソウ」では、小葉の縁には大きなノコギリの歯状の鋸歯(葉の縁のギザギザ)が密に並びます。
「カノコソウ」と「ツルカノコソウ」を花や花穂の態様で区別することは難しい。ただ、「カノコソウ」では花が淡紅紫色を帯びることがあります。

花の盛期には、地際に長い走出茎を出します。この走出茎が「蔓(ツル)」の名の由来です。
「カノコソウ」では地下茎はありますが地上に走出茎は出しません。

晩春〜初夏には、羽状の冠毛が目立つ小さな果実をつけます。果実は細い円柱状で長さ2mmほどです。

本州〜九州に分布します。
多摩丘陵では、見かけることは少ない。恐らく自生に適した湿生が高い半陰地が少なくなったことによると思われます。

■名前の由来
「カノコ」の名は、花穂、特に蕾の時期の花穂の印象を「鹿の子模様:鹿の子絞り」にたとえた名前であるとするのが一般的です。「蔓:ツル」は、花の盛期に地表に走出茎を出すことからです。

■文化的背景・利用
知られた詩歌や文芸などにはカノコソウの名は現れていないようです。
なお、古い時代には「カノコソウ」と「ツルカノコソウ」を明確に区別していなかったと考えられます。

江戸時代の本草書である「本草綱目啓蒙」にカノコソウが現れています。

欧州に分布するセイヨウカノコソウは中世から薬用に利用され、広く知られていたようです。

■食・毒・薬
秋に採取する根茎を乾燥させたものを生薬「吉草根」として利用します。神経系の沈静などに効果があるとされます。
このように薬用にされることから食用にはできません。
当然、有毒であると考えられます。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(カノコソウ属)は、日本では上記の「カノコソウ」と「ツルカノコソウ」の2種が自生しています。
オトコエシが、草姿としては似ていますが、大きさが半分にも満たないので用意に区別できます。

〇仲間のカノコソウは、上述の通り葉(小葉)の縁の鋸歯が大きなノコギリの歯のように密に粗く並ぶことで区別できます。
なお、カノコソウは草丈がツルカノコソウよりも大きくなることがあり、花穂の色が淡紅紫色を帯びることがあります。    
写真は「花」
ツルカノコソウ
写真は「走出茎」
ツルカノコソウ
写真は「果実と綿毛」
ツルカノコソウ