ツメクサ(爪草)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

ツメクサ(爪草) ナデシコ科ツメクサ属
学名:Sagina japonica

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■特徴・分布・生育環境
やや湿生のある場所で、丈の低い草地〜半裸地に自生する小さな1年草(越年草)です。
  
ただ、この仲間(同属)と近縁(別属)種には互いに似たものが多く、見分け難いところがあります。それに加えて、「ツメクサ」の名も多くで使われているので余計に混乱します。
以下のような種があります。見分け方は後述の通りです。

・このツメクサの仲間(ツメクサ属)は、葉の基部には微小な膜質の托葉はありません。また、微細なので確認し難いのですが花柱(メシベ)は4〜5個に分かれています。3個であるタカネツメクサ属とは別属とされます。
・タカネツメクサ、ホソバツメクサやミヤマツメクサは別属タカネツメクサ属で、葉の基部には微小な膜質の托葉はありません。この仲間は普通高山帯に自生します。また、微細なので確認し難いのですが花柱(メシベ)は3個に分かれています。4〜5個であるツメクサ属とは別属とされます。
・オオツメクサやノハラツメクサは別属(オオツメクサ属)で、ともに明治時代に欧州から渡来したとされる外来種です。分類上では、ツメクサ属とは異なり極く小さな(長さ1mm前後)膜質の托葉が葉の基部にあることで区別します。また、微細なので確認し難いのですが花柱(メシベ)は5個に分かれています。3個であるウシオツメクサ属とは別属とされます。
・ウシオツメクサや帰化種とされるウスベニツメクサは別属(ウシオツメクサ属)で、分類上では、ツメクサ属とは異なり極く小さな(長さ1mm前後)膜質の托葉が葉の基部にあることで区別します。また、微細なので確認し難いのですが花柱(メシベ)は3個に分かれています。5個であるオオツメクサ属とは別属とされます。なお、この仲間では花被片の先や花被片全体が淡紅色を帯びることが多い。

・ハコベの仲間(ハコベ属)にも、ツメクサの名を持つものがあります。葉や草姿はやや似ていますが、花弁が2深裂しているので花被片が10枚に見えることで容易に区別できます。

・ベンケイソウ科のアズマツメクサは、葉や草姿がツメクサにやや似ていることからツメクサの名がありますが、水湿生地に自生し葉は短く(長さ1cmほど)多肉質で花は4弁花なので容易に区別できます。

・マメ科シャジクソウ属のクローバー(シロツメクサやアカツメクサ)やコメツブツメクサなどは「詰草」で、この「爪草」とは全く別種で花の形態が大きく異なるので容易に区別できます。ほぼすべて外来種です。

花時の草丈は5〜10cm(時に20cm)ほどです。花もかなり小さく葉も茎も細いので歩きながらだと見落としがちです。
地際から茎を叢生させます。ただ、他の草の葉などに紛れているので多くの場合は茎の基部を見ることはありません。半裸地では、茎を放射状に這うように横に伸ばしやがて斜上させます

茎は径1mmほどととても細く柔らかく、葉も径1mmほどで長さ1〜2cm弱です。見た目には茎や葉が「細いヒモが込み合っている」ように見えます。さらに、茎も葉もともに深緑色なので余計にそのように見えます。

春〜夏に「茎の上部の葉腋から花茎を出して1個の花をつける」のが特徴のひとつです。花は5弁で花弁は楕円形です。花径は4mmほどで花色は白色です。花柱(メシベ)が(4〜)5個なのも特徴ですが、微小なので確認は難しい。
果実は径3mmほどの偏球形(刮ハ)で、熟すと微小な(径0.5mmほど)種子を出します。

日本各地〜東アジアに広く分布します。
多摩丘陵では、見かけることは少ない。これは1年草である本種が生育できる湿生のある半裸地(や丈の低い草地)が大きく減少したことによると考えられます。

■名前の由来
江戸時代までは、後述するように「ツメクサ」の名は定まっていなかったと考えられます。当時は多くの呼び名があったようですが、「タカノツメ」、「スズメグサ」や「テンジンノツメ」等の呼び名もあり「葉の形態を野鳥の爪」になぞらえて「ツメクサ」となったいうのが一般的です。

■文化的背景・利用
江戸時代に至るまでの多くの和歌や文芸などにはツメクサとしては現われていないようです。
江戸時代の本草書「本草綱目啓蒙」には漢名である「漆姑草」(中国での呼び名)が現れているとされています。
「漆姑草」の日本での呼び名(や地方名)として「タカノツメ」、「スズメグサ」、「コゴメグサ」や「テンジンノツメ」等々の多くが記載されているとされます。したがって、「ツメクサ」の名はこの時代以降に定着したものと考えられます。

■食・毒・薬
中国では薬用に利用されるようですが、日本では薬用にはしないようです。
有毒であるという報告はないようですが、未確認であるだけの可能性があります。食用などにはできないと考えるべきです。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(ツメクサ属)や近縁(別属)の種は互いに似ていて見分け難いところがあります。「葉の基部の膜質の托葉」や「柱頭の数(本数)」といった微小な部位で区別するところがあるので、余計に判断が困難です。

ツメクサ属:花柱(メシベ)が4〜5本になる。また、葉の基部には膜質の微小な托葉はない。また、普通は花柄は分けずに1個の花をつける。花は径5mmほどとかなり小さい。
・このツメクサでは、葉も茎も径(幅)1mm程と細く、ともに色が深緑色であることもあって茎と葉の区別がつき難いところがあります。茎は絡み合うようにして普通は立ち上がります。花は茎の上部の葉腋につき1cm前後の花柄(小花柄)の先につき、花柄を分けないで1個の花をつけるのが特徴です。
ハマツメクサは、海岸近くの砂礫地〜内陸に入った半裸地に自生します。茎は叢生し放射状に広がり、ほとんど立ち上がらず横に広がるのが特徴です。花は茎の上部の葉腋につき1cm前後の花柄(小花柄)の先につき、花柄を分けないで1個の花をつけるのが特徴です。見た目での判断は難しいのですが、茎はツメクサよりも明瞭に太い。ツメクサでは茎は糸のようで、同様な糸状の葉と見分け難いのが特徴です。
チシマツメクサは、高山〜寒冷地に自生し、草丈は低くせいぜい5cmほどです。そのせいもあって放射状(ロゼット状)に広げる根生葉が目につきます。
イトツメクサアライドツメクサは外来種でガク片と花弁が4枚です。ただ、ほとんどの場合は花弁は退化していてありません。他の仲間や近縁種ではそれぞれ5枚です。

タカネツメクサ属:花柱(メシベ)は3本。また、葉の基部には膜質の微小な托葉はない。普通は高山に分布します。草丈は5cm前後と低く葉は針型で長さ1.5cm前後と短い。ただ、花は径1.5cm前後で、ツメクサの仲間(径5mmほど)に比べてかなり大きいのが特徴です。
この仲間(タカネツメクサ属)は互いによく似ていて区別は結構難しい。
タカネツメクサでは、花弁の先が僅かに窪み(2裂)ます。なお、花茎は分けません。
ミヤマツメクサは、タカネツメクサに似ていますが、花弁の先は窪みません。なお、花茎は分けません。
ホソバツメクサでは、花茎の上部で花柄を分け(2出集散花序)ていくつかの花をつけます。

オオツメクサ属:明治時代に欧州から渡来したとされる外来種です。花柱(メシベ)は5本。また、葉の基部には膜質の微小(長さ1mm)な托葉があります。
ノハラツメクサでは、ツメクサ属とタカネツネクサ属では葉が針状で長さ1cm前後であるのに対して、長さ4cmほどの線形の葉が茎上部にあり、葉が長いのが目を引きます。また、花茎の上部で花柄を分け(集散花序)ていくつかの花をつけます。
オオツメクサは、ノハラツメクサの変種です。種子に突起の無いものです。ただ、種子は径1mm強と微小なので確認は難しい。
オオツメクサモドキも、ノハラツメクサの変種です。種子が2倍ほど大きいことで変種とされます。ただ、種子がもともと径1mmほどと微小なので確認は難しい。

ウシオツメクサ属:花柱(メシベ)は3本。また、葉の基部には膜質の微小(長さ1mm)な托葉があります。また、この仲間では花被片の先や花被片全体が淡紅色を帯びることが多い。。
ウシオツメクサでは、似たノハラツメクサとは異なり花茎の上部で花枝を分けません。花色は白色〜淡紅色で、花弁の先が淡紅色になることも多い。
ウスベニツメクサでは、花弁全体が淡紅色になることが普通なので容易に区別できます。

〇名に「ツメクサ」がある「ハコベ属」のナガバツメクサ、イワツメクサやエゾイワツメクサでは、葉が線形なところは似てはいますが、花弁が2深裂しているので花被片が10枚に見えることで容易に区別できます。    
  
写真は「花」、「葉と花」、「全体」と
「果実」の4枚を掲載
ツメクサ
ツメクサの花
ツメクサ
ツメクサの葉と花
ツメクサ
ツメクサの全体
ツメクサ
ツメクサの果実