■特徴・分布・生育環境
草丈10〜20cmほどになる1年草です。
ただし、茎が立ち上がることは普通はありません。
半日陰になる林縁の湿性の強いところに生育します。
このトキホコリは平地に自生します。
そっくりなヤマトキホコリやこの仲間を代表するウワバミソウは少し標高のある山地に自生します。
茎は、中ほどで湾曲して地面とほぼ平行になります。
茎の両側に葉を行儀よく並べ(互生)るので、小型ですが比較的見分けやすい。
夏に芽生えます。多摩丘陵では6月中旬です。この時期になって芽生える草本は少ない。
後述の通り、初秋には極めて小さな袋状の蕾をつけて徐々に開き大きくなります。多摩丘陵では8月下旬からです。
確認できた範囲では単独で生育することはなく、小群生を作ります。
小群生を作る理由はまだ確認できていません。
葉は、茎の上方向に少し湾曲しています。左右対称ではありません。
葉が左右対称ではなく少し湾曲しているものは、この仲間だけではなく近縁のサンショウソウ属の草本など他にもあります。
木本にもこのような葉を持つものがありエノキが身近です。
葉身は、中央部が偏楕円形で葉先が三角形状です。葉身の長さは4〜6cmです。
葉の縁には鋸の歯状のギザギザ(鋸歯)があります。
花は、初秋(時に晩夏)〜秋にかけて個々の葉脇につけます。
花自体はごく小さく、多くが集まって緑色の扁球形になります。
したがって、偏球形の花序が茎に多く並びます。
本州中部以北に分布します。絶滅危惧U類とされています。
多摩丘陵ではごく限られた場所でしか確認できていません。
■名前の由来
名前の由来はよくわかっていないようです。
一説には、「和名は『時ホコリ』でありホコリは繁茂するの意味。時は不時(時知らず)の意味で時に群生して繁茂することから」というものがあります。
しかし、標準語では「繁茂する」、「繁る」や「蔓延る」の読みに「ホコル」や「ホコリ」はないので少し無理があるようです。
ただ、蔓延る(ハビコル)ことをある地域では「ホコル」と言うので、しばしば群生するこの草本を地方名で「ホコリ」と呼んでいたものから命名された可能性はあります。
江戸時代までの数多くの文献には「トキホコリ」といった名前は現れていないようです。
この仲間を代表している「ウワバミソウ」は古くから食用として利用されてきていて、よく知られています。
この仲間(ウワバミソウ属)のトキホコリやヤマトキホコリは、見た目の姿や葉・花序がウワバミソウによく似ています。見た目では「大きさ」が異なる程度です。
したがって、明治時代に入るまではトキホコリやヤマトキホコリがウワバミソウと明確に区別されていなかった可能性があります。
■文化的背景・利用
この仲間(同属)を代表しているウワバミソウは、古くから山菜として利用されてきています。
山菜としては「ミズ」や「ミズナ」の名がよく知られています。
詩歌などにはその名は現れてはいないようです。
江戸時代の本草綱目啓蒙や物品識名にその名が現れているとされますが、どのように記載されているかについては未確認です。
■食・毒・薬
有毒であるという報告はないようです。
薬用に利用することもないようです。
この仲間(同属)を代表しているウワバミソウは、よく知られている山菜です。
ウワバミソウによく似たヤマトキホコリも時に食用にされるという報告はありますが未確認です。
■似たものとの区別・見分け方
この仲間(ウワバミソウ属)のトキホコリやヤマトキホコリは、見た目の姿や葉・花序がウワバミソウによく似ています。見た目では「大きさ」が異なる程度です。
〇ウワバミソウは草丈30cm(しばしば40cm)ほど、葉の長さは10cm前後です。葉先が尾状に伸びています。花期は初夏からでヤマトキホコリやトキホコリよりも早い。岩礫性の傾斜地に生育することが多く、そのような場合は垂れ下がります。
〇ヤマトキホコリは草丈30cm前後、葉の長さは8cm前後です。葉先は三角形状で、尾状に伸びているウワバミソウと区別できます。花期は晩夏〜秋です。多年草です。
〇トキホコリは草丈10〜20cmほどで、葉の長さは5cm前後です。葉先は三角形状で、ヤマトキホコリと同じですが、ウワバミソウのように尾状に伸びていません。花期は初秋〜秋です。1年草です。
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写真は「全体」、「花序」、「群生」と 「芽生え:多摩丘陵では6月中旬」 の4枚を掲載 |
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トキホコリの全体 ごく小さい花序の卵 |
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トキホコリの花序 |
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トキホコリの群生 |
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トキホコリの芽生え 多摩丘陵では6月中旬 |
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