タシロラン(田代蘭)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

タシロラン(田代蘭) ラン科トラキチラン属
学名:Epipogium roseum

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■特徴・分布・生育環境
環境省による準絶滅危惧種です。多摩丘陵でもめったに見かけません。
ただ、多摩丘陵では2010年代に入ってから数か所での自生確認報告があり、近年では増加してきている印象があります。

しかしその一方で、前年度確認できた場所であっても必ずしも翌年に確認できないこともあります。
地下に根茎があるようなので、多年草であろうと推定できますが、生態(生活誌)は把握できていません。

「腐生植物」とされることがありますが、単に落葉や落枝が積もって腐葉土になったような場所に自生するわけではなく、特定の菌類に寄生して栄養を得ています。
したがって「菌従属栄養植物」とされることが普通です。
ある種の菌類が存在していて、環境条件(水・陽光・温度など)が揃った場合に地上に花茎(花穂)を出します。

多摩丘陵では陽光の入らない常緑樹林などの林床であって、草本や笹などがほとんどない場所で、かつ伐採枝や落葉などが堆積されている場所でのみ極く稀に見かけます。

夏の一時期だけ(多摩丘陵では6月末〜7月初)に、地上に花茎を出します。
花茎や花(蕾)には葉緑体はなく、全体に白色でやがて淡褐色を帯びます。

花の盛期には、花茎は直立し高さ20〜30cm前後になります。時に40cmを越えるここともあるようです。
単独でポツンと生えることは少なく、小群落を作ることが多い。

しかし、10日〜2週間前後でその花茎も消滅してしまうことがほとんどなので,余計に見かける機会が少ないようです。

地上に姿を現した当初は、花茎の上部は下向きに強く湾曲していて、その先にいくつかの花(蕾)をやや密に下向きにつけます。
花茎は徐々に立ち上がり、茎の伸長にともなって花がばらけていきます。
直立する花茎には、2・3個〜8個前後、時に十数個の花をややまばらな細い穂状(総状)につけます。

花も白色です。淡紫色の斑点が少しありますが、花自体が小さいこともあって目立ちません。
花は普通は花茎にやや下向きにつきます。
花は長さ1cmほどの筒状です。花茎の伸長とともに花穂の基部から順に先端が小さく開きます。

花(果)穂は、上述の通り晩期には淡褐色を帯びます。

茎には微小な膜質の鱗片葉があります。

関東地方南部〜沖縄、東アジアの暖温帯に分布します。
多摩丘陵では、常緑樹林など陽光が入らない林床にごくごく稀に見かけます。ただ、上述の通り2010年代に入ってから確認報告が増えている印象があります。

■名前の由来
明治時代に田代善太郎氏によって確認されたので、その名にちなんで「タシロ」ランです。

この仲間(トラキチラン属)には、このタシロランの他にトラキチランとアオキランが日本に自生しますが、全て発見確認者の名前を冠されています。ともに明治時代に確認されています。

■文化的背景・利用
確認記載されたのが明治時代なので、万葉集はもとより知られた詩歌や文芸などにその名は現れていません。
多くの本草書などにもその名は現れていません。

腐生(菌従属栄養)植物なので栽培はできません。

■食・毒・薬
有毒であるという報告はないようですが、注意が必要です。また、食用にも薬用にもしません。

■似たものとの区別・見分け方
多摩丘陵には似たものはありません。

仲間(同属)のトラキチランは、花期が初秋〜秋で、花色は淡褐色を帯びます。普通は針葉樹林の林床を好みます。
また、同じく仲間(同属)のアオキランは,花期は初秋で、花色が淡褐色です。普通は落葉樹林の林床を好みます。

別属ですが、オニノヤガラが、花期がタシロランと同じく夏で、草姿がやや似ています。オニノヤガラでは草丈が50cm〜1mほどと大きく、花穂に20〜40個ほどの花をやや密につけることで区別できます。また、花色は黄褐色です。    
  
写真は「花の盛期の全体」、
「伸長途上の花穂」
「花」、「花の斑点」、
「花(蕾)の多い芽生えの花穂」、
「花(蕾)の少ない芽生えの花穂」、
「若い花穂:小群落」
と「淡褐色を帯びる晩期の花(果)穂」
の8枚を掲載
タシロラン
花の盛期の全体
タシロラン
伸長途上の花穂
タシロラン
タシロランの花
タシロラン
タシロランの花の斑点
タシロラン
花(蕾)の多い芽生えの花穂
タシロラン
花(蕾)の少ない芽生えの花穂
タシロラン
若い花穂:小群落
タシロラン
淡褐色を帯びる晩期の花穂