■特徴・分布・生育環境
開けた明るい谷筋に自生することが多い小さな多年草です。
通常は、湿性のある林床に自生するとされますが、必ずしもそうではないようです。谷筋が開けて扇状になった緩斜面〜台地を好むようで、日当たりのよい場所にも自生しています。
東京都の中島氏に教えていただいて、多摩丘陵での自生を始めて確認できました。湿性の低い場所で見たのは始めてでした。
草丈は、花時でもせいぜい10〜15cmほどです。小群落を作ることが多く、茎は地面を這うのが普通です。そのせいで、小さな葉が地面を覆うように茂り、その高さは5cmほどです。
多摩丘陵では、晩春〜初夏(5月上旬)に花茎を立てて、ほぼ上向きに一花をつけます。
花期は、しばしば6月〜8月されますが、恐らく最初に確認されたのが標高のある場所〜やや寒冷地であったことによるものと思われます。
花色は白色です。時にごく淡い紫色を帯びます。
花冠は、やや狭い漏斗型で、長さは1cm弱です。5深裂しているので、5枚の花弁に見えます。
葉は、長さ1〜2cmほどの卵円形で、縁にはまばらに浅い鋸歯(葉の縁のギザギザ)があります。
花が終わると花茎は項垂れて、小さな(長さ2〜3mmほど)扁平な種子をつけます。
普通は、ヒマラヤに自生する基本種(var. carnosa)の変種(var. circaeoides)とされます。
日本各地から東北アジアに分布します。
多摩丘陵では、上述の通り、東京都の中島氏に教えていただいて、始めて自生があることを知りました。2014年現在では、ごく限られた場所でだけ確認できているだけです。
■名前の由来
キキョウの名は、中国名の桔梗の呉音ケチキョウからの転訛であるとされています。「タニ(谷)」は、谷筋に多いことからのようです。ただし、上述のように湿性が低い場所にも自生しています。
■文化的背景・利用
「キキョウ」は、万葉集の山上憶良の歌、
「秋の野に 咲きたる花を 指(おゆび)折り かき数ふれば 七種の花」
「萩が花 尾花(すすき) 葛花(くず) なでしこの花 おみなえし また藤袴(ふじばかま) 朝貌(あさがお:ききょう)の花」
の通り「秋の七草」のひとつですが、タニギキョウそのものは含まれていません。
江戸時代の本草書「本草綱目啓蒙」に、その名が現れているとされています。
■食・毒・薬
「キキョウ」は、生薬「桔梗根」として、古くから去痰(きょたん)や鎮咳(ちんがい)に用いられていますが、タニギキョウは利用されないようです。
食用にはできません。
■似たものとの区別・見分け方
多摩丘陵に、似たものはありません。
なお、キキョウ科では、ツルニンジン、ツリガネニンジンやホタルブクロなどが多摩丘陵に自生していますが、草姿や花容は似ていません。
また、多摩丘陵に自生はありませんが名がどこか似ている「サワギキョウ」では、花は左右相称の唇形で、まるで似ていません。サワギキョウの仲間では、ミゾカクシが多摩丘陵に稀に自生しています。
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写真は「花(1)」、「花(2)」、「小群落」、「葉」 と「種子(二つが重なっている)」 の5枚を掲載 |
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タニギキョウの花(1) |
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タニギキョウの花(2) |
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タニギキョウの小群落 |
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タニギキョウの葉 |
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種子(二つが重なっている) |
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