■特徴・分布・生育環境
林縁や疎林の林床に自生する多年草です。針葉樹林の林床を好むようです。
花(果実)時に高さ20〜30cmほどになります。全草に有毒成分を含みます。
多摩丘陵では1980年代までは自生があったと文献に記載されていますが、1990年代以降は確認されていません。
「オウレン」の名は、生薬名「黄連」からのものです。生薬としての漢名が「黄連」で、中国大陸に自生する「シナオウレン」の根茎を乾燥させたものです。古くから健胃整腸薬などとして用いられてきています。
後述の通り、江戸時代までは植物としての和名は「加久末久佐(カクマクサ)」であったと考えられます。
日本でも薬用に栽培されることがあり、その根茎はやはり黄連と呼ばれます。主にセリバオウレンが栽培されるようです。
明治時代に入って分類が進んだことにより、葉の形態に基づいて次の3種に分けられています。ただし、葉の形態を見た目で区別することはかなり困難です。
○キクバオウレン(通称:オウレン):葉が1回三出複葉(葉軸が三つに分かれて小葉をつける)。主として北海道南部〜本州の日本海側に自生。
○セリバオウレン(黄連として栽培もされます):葉が2回三出複葉(葉軸が三つに分かれてさらに三つに分かれて小葉をつける)。キクバオウレンの変種とすることが多い。
○コセリバオウレン:葉が3回三出複葉(三つに分かれる葉軸が三つに分かれてさらに三つに分かれて小葉をつける)。キクバオウレンの変種とすることが多い。
早春(多摩丘陵では2月下旬〜3月上・中旬)に、花茎を立てて草丈20cmほどになります。花後にはさらに伸びて果時には30cm前後になります。
花茎の先で花柄を分けて、3個ほどの花を横向き〜斜め上向きに平開します。
花には、雄蕊だけがある雄花と雄蕊と雌蕊がともにある両性花がありますが、花が小さいこともあって見た目での区別は難しい。
花径は1cmほどです。花色は、白色〜ごく淡い紫色です。
花を一見すると重弁のキクの花のように見えます。これは、花弁状の(細い)披針形のガク片と、その内側にあるガク片の半分ほどの長さの細い披針形の花弁、さらに多くのオシベが重なっていることによります。
一番外側(花の基部側)に、最も長い5〜6枚のガク片があり、花弁状に色づきます。その内側に10枚ほどの花弁があります。花弁の長さは外側のガク片の半分以下です。さらにその内側に10本内外のオシベがあります。
春早く(多摩丘陵では3月下旬〜4月初)には果実をつけ緑色からやがて淡褐色に熟します。
果実は袋状(袋果)で、放射状に柄の先に多くつき、全体としては径1cmほどの風車状になります。
本州〜四国に分布します。なお、上述の通りキクバオウレンは北海道南部〜本州の日本海側に分布し、コセリバオウレンは本州の太平洋側に分布します。
多摩丘陵では、上述の通り、1990年代以降には確認できなくなっていて、一部の植栽個体を除いて地域絶滅したと推定されます。
■名前の由来
「黄連」(おうれん)の名は、後述の通り江戸時代までは生薬名として使われていたと考えられます。
「黄連」は、生薬として利用される部位からの呼び名で、「球状に連なる根茎の色が黄色」であることからというのが通説です。
「芹葉:せりば」は、葉がセリの葉のように細かく裂れこんでいることからです。ただし、この仲間の葉は普通は同様に細かく裂れこんでいます。
■文化的背景・利用
上述のように、かなり古い時代から「黄連」は生薬として利用されてきていたようです。
日本最古とされている平安時代の本草書「本草和名」や「和名類聚抄」に「黄連(おうれん)」の名が現れています。ただ、和名「加久末久佐(カクマクサ)」とされているので、この時代には「黄連」は生薬の名で、植物としては「加久末久佐」と呼ばれていたと考えられます。
また、江戸時代の本草書「本草綱目啓蒙」にも、やはり和名として「加久末久佐(カクマクサ)」の名が現れているので、江戸期までは「黄連」は生薬名で、植物名としてはカクマクサであったようです。
なお、「黄連」は中国で、古い時代から中国大陸原産の「シナオウレン」(Coptis chinensis)の根茎を生薬として利用してきていることからで、「おうれん」の呼び名は「黄連」の日本語読みであったと思われます。
万葉集などの多くの歌集などには、「黄連」や「カクマクサ」は歌われていないようです。
ただ、数首で「カクモグサ」が現れていて、これは「カクマクサ」であるとされることがありますが、一般的ではありません。
また、与謝野晶子の和歌に「黄連」が詠われているとされますが、「この花が咲くと秋は近い」と歌われているので、早春に花をつける「オウレン」の仲間とするには違和感があります。ただし、亜高山〜高山帯に分布する「ミツバオウレン」は8月ごろに花をつけるので、これを歌にした可能性があります。あるいは、この和歌は何か象徴的な意味で「黄連」を歌っているのかもしれません。
■食・薬・毒
キンポウゲ科の植物のほとんどがそうであるように有毒植物です。全草に有毒成分を含みます。
特に根茎には、アルカロイド系の有毒成分であるベルベリンを多く含みます。
上述のように、この根茎はかなり古い時代から薬用に利用されてきていて、乾燥させたものを生薬「黄連」と呼びます。健胃整腸などの効能があるとされています。
もちろん、食用にはできません。
■似たものとの区別・見分け方
この仲間(オウレン属)は、他のキンポウゲ科の植物とは花の見た目も違っていて、分類上でも「オウレン亜科」とされます。
○花被片(ガク片とその内側の小さな花弁)が細い披針形である「オウレン:キクバオウレン」とその変種「セリバオウレン」と「コセリバオウレン」
−上述の通り、葉の形態で見分けますが、実際には難しい。
○外側(基部側)の5枚の花被片(ガク片)が幅広の倒卵型(梅の花に似る)で、内側の小さい花弁が(先のほうがやや幅広の)サジ型の「バイカオウレン」と「ミツバノバイカオウレン」
−バイカオウレンは、葉が5枚の小葉に分かれて(鳥足上)います。福島県以南の本州〜四国に分布。多摩丘陵では自生はなかった可能性が高い。
ーミツバノバイカオウレンは、名の通り葉は3小葉です。本州中部日本海側の亜高山〜高山帯に自生します。自生地が高山なので花期が6月〜8月です。
○外側(基部側)のガク片(普通5枚)が、細くてねじれるようになっている「ウスギオウレン」。
−ガク片の色がやや黄色味を帯びます。葉には変異があってキクバ状〜セリバ状です。本州中央の南東部の山地(標高500m〜2,000mほど)にのみ自生。
○外側(基部側)のガク片(普通5枚)がやや幅広の披針形で、内側の小さな花弁が黄色味を帯びる「ミツバオウレン」
−名の通り、葉は3小葉です。本州中部以北の亜高山・高山帯〜北海道に自生。自生が寒地なので花期は6月〜8月です。
|
|
写真は「花」、「花期の全体」、「葉(根生葉)」 「葉:よく赤味を帯びる」, と「果実」の5枚を掲載 |
|
セリバオウレンの花 |
|
花期の全体 |
|
葉(根生葉) |
|
葉はよく赤味を帯びる |
|
果実 |
|