サクラソウ(桜草)         
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

サクラソウ(桜草) サクラソウ科サクラソウ属
学名:Primula sieboldii

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■特徴・分布・生育環境
湿性のある草地に自生する小型の多年草です。
関東地方では、1級河川「荒川」の河川敷のひとつである田島が原の群生地が国の天然記念物となっています。

関東平野中部をほぼ横断(東西)する荒川の河川敷よりも南側には、自生はなかったとするのが通説です。荒川の南部を、荒川と同様に関東平野をほぼ横断(東京都と神奈川県の県境でもる)している1級河川「多摩川」の河川敷にはサクラソウの自生があったという記録はないようです。
したがって、多摩川の南側にあたる多摩丘陵、特に多摩丘陵を主たる流域とする鶴見川水系には、自生はなかったとされます。

ただ、2010年頃から、鶴見川中流域でサクラソウを復活させるという取り組みが行われています。現在の横浜市中部の港北区の小机あたりになります。以前は、鶴見川の氾濫原であったあたりです。
古い時代(江戸時代)に、そのあたりにサクラソウの品種が自生していたことからのようです。これは、おそらく江戸時代に盛んであったサクラソウの園芸栽培による品種が、逸出または植栽されたものであると推定されます。

日当たりのよい湿生地に自生する多年草です。花時には、草丈20〜30cmです。
春に、花茎を立てて茎頂で花柄を分けていくつかの花をつけます。条件がよければ10個以上の花をつけます。花は淡紅色〜淡紅紫色で花径は2cm前後です。花冠は5深裂し、裂片の先は小さく窪みます。見た目では5枚の花弁があるように見えます。ただし、花色などには変異が多くあります。
花の中心を形成する小さな円環状の部位(喉)が白いのが特徴です。喉の色はサクラソウの仲間を見分けるのによい特徴点です。ただし、多くの園芸品種にも喉が白いものがあるので注意が必要です。

葉は根生葉で放射状に広がり、斜上することが多い。葉は長楕円形で毛が多く、若い葉は外向きに巻いているのが特徴です。見た目でも毛が多いことが判ります。また、葉にはシワが多く、葉縁には不規則に浅く裂れ目が入るのも特徴です。
葉身は長さ5〜10cm、幅3〜5cmで、長さ5〜10cm前後の長い柄があります。

サクラソウは、後述のように江戸時代の初期から園芸化されて、多くの品種が作出されています。一説には300種を越えるとされています。また、観賞用に多くの種が海外から移入されています。したがって、自生種を見ることは極めて稀です。

北海道南部〜本州・九州、北東アジアに分布します。
多摩丘陵では、自生はなかったとするのが通説です。ただ上述の通り、江戸期にサクラソウの品種の園芸栽培が広がったことにより、サクラソウの園芸品種が逸出していることがあったようです。

■名前の由来
「桜草」の名は、花の様子を「桜の花」に見立てたものであるというのが定説です。

■文化的背景・利用
サクラソウは、江戸時代に入ってから庶民にも親しまれ始めたようで、上述の田島が原を始めととして、荒川沿いの戸田の原や浮間が原などが有名な観賞地となっていたようです。また、園芸栽培が盛んになり花の色や形態が異なる多くの園芸品種が作出されてきています。品評会なども開催されたようです。
それもあってか、万葉集を始めとする多くの歌集などには知られた詩歌はないようです。
江戸時代の小林一茶による「我が国は 草も桜を 咲かせけり」の俳句が知られています。

学名「Primula sieboldii」からわかるように、江戸時代末期に来日して日本植物誌(Flora Japanica)を編纂したシーボルトが採集した標本に基づいて記載されました。

江戸時代の本草書「大和本草」に桜草の名が現れているとされます。

■食・毒・薬
海外から観賞用に移入された種は、カブレることがあります。一般にセイヨウサクラソウやプリムラなどとして販売されるものがそれにあたります。
日本に自生する在来種(サクラソウ属)については毒性の報告はないようですが、注意すべきです。
もちろん、食用にはできませせん。

■似たものとの区別・見分け方
この仲間(サクラソウ属)は、互いに似ていて区別するのに苦労します。
ただ、自生地が「亜高山・高山帯〜北地(寒冷地)」や「特定の山地」に限られているものが多い。
いずれにしても、西暦2、000年前後では、登山などの機会に見ることを除けば、見かけるものはほぼ栽培品種または観賞用外来種です。

上述の通り、本種サクラソウは多摩丘陵には分布していなかったというのが通説です。また、他の仲間も多摩丘陵には自生していなかったと考えられています。
ただ、サクラソウはよく知られているので、以下にこの仲間(サクラソウ属)の区別や見分け方を記載します。

〇低地(平野部)にも自生するもの

・本種サクラソウは、低地(平野部)〜山麓に自生します。主として河川敷などの湿生地です。概要は本頁の通りです。

〇低山地(標高数百m〜1,000mほど)に自生するもの

クリンソウは、山地の麓の湿生地に自生します。北海道〜本州〜四国に分布します。
−葉も花穂も大型で美しいので人家近くに植栽されることも多い。花茎の上部に、数段にわたって輪生状に花を多くつけます。草丈は50cmほど、時に70cmほどにもなります。
−多摩丘陵に自生があったという記録はないようです。少し離れていますが箱根山地に稀産するという記録があるようです。
−クリンソウには、数種の園芸品種が知られているようで、江戸時代に盛んになったサクラソウの園芸化にともなって作出された可能性があります。

イワザクラは、山地の谷筋の岩場に自生し、石灰岩地に多い。草丈は花時に10cmほどと小型です。本州中部地方(岐阜県〜紀伊半島)・四国・九州中部に分布します。
−このイワザクラの果実の形態がやや異なるものを変種シナノコザクラとします。関東西部〜中部地方南部に分布します。
ーともに、花の喉は黄色〜橙黄色です。葉は径7cmほどになる円形で、葉縁は不規則に裂れ込みます。葉の表面は無毛です。

コイワザクラは、イワザクラによく似ていて自生地も似ています。草丈は花時に10cmほどと小型です。本州の関東西部〜中部地方南部〜紀伊半島に分布します。
−葉がイワザクラよりも少し小さいのですが、見た目での区別は難しい。花の喉も淡い橙黄色で、これも見た目での判断は難しい。
−コイワザクラでは、葉の表面に毛がありますが、イワザクラでは葉の表面は無毛であることで区別できます。ただ、この区別も簡単ではありません。
−このコイワザクラでは、葉の形態が少し異なるものを変種とします。秩父山地〜八ヶ岳・南アルプスに分布するクモイコザクラ、群馬県妙義山に自生するミョウギコザクラです。また、秩父の武甲山に自生し花がわずかに大きく葉柄にやや密に毛があるものをチチブイワザクラとします。

カッコソウは、北関東のある山域にのみ自生する稀少種です。花時の草丈は20cmほどになります。花の喉の色は濃赤色です。
−「カッコソウ」の名前の由来は不明です。「勝紅草」の漢字をあてることが多いのですが、これも当て字のようです。
−さらに、学名は「Primura kisoana」で「木曽」を意味する「kisoana」とされていますが、木曽地方には自生はなく、なぜこの学名がつけられたのかも不明です。自生地がごく限られた地域であることと合わせて、その出自がいまひとつ判然としない植物です。
−四国に分布し、ガク片がわずかに長く喉の色が黄色いものを変種シコクカッコソウとします。 

○亜高山・高山帯〜北地(寒冷地)の高地に自生するもの

ユキワリソウは、本州中部〜四国〜九州の高地〜亜高山帯にかけて分布します。やや小型で、花径は1.5cmほど、葉も小さく長さ5cm前後で幅2cm前後です。花の喉の色は黄白色です。ただ、変異も多く、見分け難い種です。
−ただ、「ユキワリソウ」の名は、積雪地で「雪を割る花」として雪解け時期に花をつける植物の通称としても使われます。キンポウゲ科のミスミソウの通称として使われます。イチリンソウ、ニリンソウやショウジョウバカマなどもしばしばユウキワリソウと呼ばれます。
−本州北部〜北海道〜千島に分布し、葉の幅がやや広く葉が裏側に強く反っているものをユキワリコザクラの名で変種とします。
−また、北海道礼文島・北海道北部の北見山地・知床半島に分布し、葉が少し大きく果実が少し長いものをレブンコザクラの名で変種とします。

オオサクラソウは、本州中部の亜高山帯〜北海道西南部の山地に分布します。やや大型で、花時の草丈は20cm〜40cm、花は輪生状につき2段になることも多い。葉は長い柄があり径10cmほどの掌状です。葉の縁は5〜9中裂して粗い鋸歯があり、裂片は鋭三角形状です。
−花は濃紅紫いろで、花の喉は黄色です。
−北海道にあり、花茎や葉柄に縮毛があるものをエゾオオサクラソウの名で変種とします。

テシオコザクラは、北海道の天塩山地にのみ分布します。花時の草丈は15cmほどで、花色が白色なのが特徴です。花の喉は黄緑色です。葉は径5cmほどの掌状で葉の縁には大小の裂れ込みが入り、裂片は鋭三角形状です。

ヒダカイワザクラは、北海道の日高山地の高地のみに分布します。花時の草丈は10cmほどで、花色が紅紫色で、花の喉は黄色です。茎頂につける花数は少なく1〜2個です。葉は径5cmほどの掌状で葉の縁には大小の裂れ込みが入り、裂片は鋭三角形状です。葉裏や花茎に長い毛があるものを変種としてカムイコザクラとします。

ハクサンコザクラは、本州の白山〜飯豊山などの日本海側の亜高山(多雪地)に分布します。花の数、花径や花色などの見た目はサクラソウに似ていますが、葉に柄がないことで区別できます。花時の草丈は10〜15cmほどです。花色は紅紫色で花の喉は黄色味を帯びた白色です。葉は長さ5〜8cmほどのヘラ状で葉の縁には鋭い歯牙があります。青森県岩木山に自生し、葉など全体に大型のものを変種としてミチノクコザクラとします。基本種をエゾコザクラとし、やや小型で北海道〜千島のオホーツク海沿海部〜アラスカに分布するとされています。

ヒナザクラは、葉などが小型で、花色が白色(喉は黄色)なのが特徴です。葉は小さく、長さ4cmほどで倒卵型(葉先の方で幅が広い)です。同じく花色が白色で、よく似たヒメコザクラでは葉は卵型(葉に基部のほうで幅が広い)〜卵円形です。本州の東北地方の亜高山(多雪地)帯に分布します。ただし、早池峰山と岩木山には自生しません。

ヒメコザクラも、葉などが小型で、花色が白色(喉は黄色)なのが特徴です。葉は小さく、長さ3cmほどで卵型(葉の基部の方で幅が広い)〜卵円形です。同じく花色が白色で、よく似たヒナザクラでは葉は倒卵型(葉先のほうで幅が広い)です。本州の岩手県の早池峰山の高地にのみ自生します。

ユウバリコザクラは、北海道の夕張岳にのみ自生します。葉が小さく長さ3cm、幅1cmほどで葉先が三角形状です。花色は紅紫色で喉は緑白色です。

ソラチコザクラは、北海道石狩川の支流である空知川上流の岩場のみに自生します。ユウバリコザクラに似ていますが、葉がヘラ状(葉先で幅が広い)です。花色は紅紫色で喉は黄白色です。    
  
写真は「花と全体」と「葉」の2枚を掲載
サクラソウ
サクラソウの花と全体
サクラソウ
サクラソウの葉