オキナグサ(翁草)        
多摩の緑爺の「多摩丘陵の植物と里山の研究室」

オキナグサ(翁草) キンポウゲ科オキナグサ属
学名:Pulsatilla cernua

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■特徴・分布・生育環境  
日当たりの良い砂礫地〜丈の低い草地・半裸地に自生する多年草です。

環境省レッドリストに絶滅危惧U類として記載されています。
全草に有毒成分を含みます。浸出液に触れると皮膚炎を惹き起こす恐れがあります。食べると嘔吐や痙攣などを惹起して危険です。

花時には草丈10〜15cmほど、果実時には草丈は20〜25cmほどになります。
根生葉の間から茎を立て、茎の上端に茎葉をつけてそこから短い(長さ2〜5cm前後)花茎を出して1個の花をつけます。
葉、茎と花の外側に白毛が密生していて、見た目でも毛が多いことが判ります。

花は、鐘型で長さ2.5cmほど、先端部は小さく開きます。やや俯き加減に開花します。稀にやや上向きに開きます。
花径は2cmほどです。花弁は無く、ガク片6枚が花弁状になります。花の外側は白毛が密生していることもあって白っぽい赤紫色〜暗赤色に見えます。花の内側は赤紫色〜暗赤紫色です。
花期は、図鑑などでは4〜5月とされることがありますが、多摩丘陵では3月中旬〜4月初です。

葉は、長さ4〜7cmほどの羽状(2回羽状複葉)ですがさらに裂片が細かく深裂しているので、葉は細かく裂けているように見えます。茎葉は普通3枚ですが、細かく深裂しているので細長い葉が並んでいるように見えます。裂片は、幅1〜2cmほどの披針型です。

果実は、ヒモ状で数多く密な球状につき、春〜初夏に熟して長さ4cm前後の白毛状になり、最終的には毛玉のようになります。

本州以西〜北東アジアに広く分布します。
多摩丘陵では、1980年代に入るころには地域絶滅しています。ほとんどが山野草業者などによる盗掘であるとされています。

■名前の由来
春〜初夏の果実が、長い白毛に覆われて毛玉状になる様子を、翁(おきな:老人の意)の白髪にたとえたものというのが定説になっています。
しかし、江戸時代の本草書である「本草綱目啓蒙」(小野蘭山)には「オキナグサ」以外に50種ほどの地方名が記載されているので、オキナグサの名前が定まったのはそれ以降であるとも考えられます。

なお、平安時代に編纂された日本最古(西暦900年初)の本草書とされる「本草和名」に、和名「於岐奈久佐(オキナクサ)」として既に現れているので、オキナグサの名前は古くから知られていたようです。

■文化的背景・利用
万葉集にある、
「しばつき(芝付)の みうらさき(三浦崎)なる ねつこぐさ(根都古草)
あひ見ずあらば あれこ(恋)ひめやも」
の和歌に歌われている「ねつこくさ」はオキナグサであるという説があります。ただ、他説もあります。

斎藤茂吉の和歌数首で「オキナグサ」が詠われています。
「おきな草 口あかく咲く 野の道に 光ながれて 我ら行きつも」
などがあります。

上述の平安時代の本草書である「本草和名」に和名として「於岐奈久佐(オキナクサ)」や、同じく平安時代の「和名類聚抄」に和名として「於木奈久佐(おきなくさ)」の名が現れているとされます。
江戸時代の「本草綱目啓蒙」に他の多くの地方名とともに「オキナクサ」の名が現れています。

■食・毒・薬
全草が有毒です。むやみに摘んだりすると皮膚炎を惹き起し、誤って食べると嘔吐、胃腸炎や痙攣などを惹き起こすので危険です。
キンポウゲ科の植物は、ほぼ全てが有毒です。
漢方で薬用にするようですが、一般での利用は危険です。

■似たものとの区別・見分け方
多摩丘陵には、似たものはありません。
なお、仲間(同属)のツクモグサでは、葉などの草姿は似ていますが、花の内側の色が淡黄色〜黄色であることで容易に区別できます。本州中北部の高山帯〜北海道(寒地)に分布します。    
  
写真は、全て保全植栽個体です。
「花」、「全体」、
「全体(複数株と思われます)」、「根生葉」、
「茎葉」、「若い果実」と「果実」の7枚を掲載
オキナグサ
オキナグサの花
オキナグサ
オキナグサの全体
オキナグサ
全体(複数株と思われます)
オキナグサ
オキナグサの根生葉
オキナグサ
オキナグサの茎葉
オキナグサ
若い果実
オキナグサ
オキナグサの果実