■特徴・分布・生育環境
常緑樹林の林床に生育するランの一種です。陽光が差し込まない常緑樹の疎林の林床を好みます。
葉は、冬にも枯れませんが、常緑ではなく、翌年にはすぐ横に新しい株を成長させて、その株の葉と入れ代わっていきます。
したがって、花期には、すぐ横に前年の葉が残っていることが多い。
葉は、両端が三角形状の楕円形で、長さ10cmほど、幅3〜4cmほどです。葉脈(平行脈)が目立ちます。
葉の基部の茎は、やや膨らんでいて、偽球形となっています。球形とは呼ばれますが、細い紡錘型で球形ではありません。
毎年、すぐ横に新しい偽球形を作って、新しい株を作ります。
夏に(多摩丘陵では6月中旬〜下旬)、高さ20〜30cmほどの花茎をほぼ垂直に立て、花茎の周囲に小さな花を穂状(総状花序)に10〜15花ほどつけます。花は、中心の幅5mmほどの唇弁以外の背ガク片、左右一対の側ガク片や左右一対の側花弁などが線形〜糸状なので目立たないので、余計に小さく見えます。唇弁は下方に強く巻き込んでいて中央部が凹んでいるので、正面から見ると「つぶれたMの字」のように見えます。
花色は、黒褐色です。
果実は、長さ1.5cmほどの細い紡錘形で、ほぼ垂直につきます。秋に淡褐色に熟します。
本州以西から中国大陸に分布します。
多摩丘陵では、常緑樹林の林床に時々見かけます。
■名前の由来
花色が黒褐色なことから「黒」蘭です。ただ、仲間のジガバチソウやクモキリソウなども花色が黒褐色になるものがあります。
■文化的背景・利用
コクランとしては、和歌や文芸などには現れていないようです。
多くの本草書などにはその名は現れていないようです。
ラン科の植物は、現在ワシントン条約で保護の対象となっていて、国際的な取引は禁止されています。
■食・毒・薬
薬用にはしないようです。
毒性の報告はありませんが、食用にするのは避けるべきです。いずれにしても、スジが多く葉は食用には適していません。
■似たものとの区別・見分け方
この仲間(クモキリソウ属)の花は、もともと小さい上に、中心の花弁(唇弁)以外の背ガク片、左右一対の側ガク片や左右一対の側花弁などが線形〜糸状で目立たないために、花がさらに小さく見えるので見分けにくい仲間です。
ただ、このコクラン以外のジガバチソウ、クモキリソウやスズムシソウなどは、遠い昔は別にして現在では多摩丘陵には自生はない(地域絶滅など)とされています。
コクランは、花の中心のやや幅広(幅5mmほど)の唇弁が下向きに強く巻き込んでいて、(唇弁の)中央部分が「下向きのクの字」に凹んでいるので、正面から見ると「つぶれたMの字」にみえます。唇弁の下側に左右一対の細い側ガク片が受けている形になっているのが特徴です。また、唇弁を調べてみると先が小さく凹んでいるのも特徴です。花色は、黒紫色ですが、ジガバチソウやクモキリソウの花も黒褐色〜黒紫色になるものがあるので、花色での区別は難しい
さらに、コクランでは、花期には葉が3枚であることが多く(他の種では普通2枚)、前年の株のすぐ脇に新しい株を出して葉を出すので、しばしば2株が並んでいるように見えます。葉は、普通は翌年まで枯れないでそのまま残っているのが特徴のひとつです。
また、コクラン以外のジガバチソウ、クモキリソウやスズムシソウでは、冬には葉は消えていて、毎年新しい株(葉)を出し(晩春〜初夏)ます。
ジガバチソウでは、花の中心のやや幅広の唇弁が尾状に前方に長く突き出していて、その下側に左右一対の線形の側ガク片も突き出しています。花色は淡緑色〜黒褐色まで変異があります。葉の葉脈が網目状なのも特徴です。
クモキリソウは、花はコクランの花によく似ていて中心のやや幅広の唇弁が下側に強く巻き込んでいて、左右一対の側ガク片や左右一対の側花弁は細い線形〜糸状です。左右一対の側花弁が糸状で下方にやや湾曲しながら垂れているのが特徴のひとつです。花色は淡緑色〜黒褐色まで変異があります。ジガバチソウにも似ていますが、葉の葉脈はジガバチソウのような網目状にはなりません。なお、コクランの左右一対の側花弁は横に張り出します。
スズムシソウでは、花の中心の唇弁の幅が明らかに広く(長さとほぼ同じ)、巻き込んだりしておらず、淡褐色なので目立ちます。葉の葉脈は網目状です。
なお、コクランは花の無い時期には、葉がエビネの越冬葉や芽生えの時期のオオバギボウシの葉にやや似ていますが、見慣れると容易に区別できます。。
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写真は「花期の全体」、「花」、「偽球形」、 「新株」と「冬越しの葉」」の5枚を掲載 |
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花期の全体 |
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コクランの花 |
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晩春〜初夏の新株 |
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コクランの偽球形 |
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冬越しの葉 |
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