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■かつては300ku−東京23区のほぼ半分−に及ぶ広大な丘陵地 多摩丘陵(たまきゅうりょう)は、現在の多摩市周辺の丘陵地であるとされていたり、あるいは、関東平野西部が時に多摩などと呼ばれることからもう少し広くとる考え方などがありますが、地勢的には、以下のように見ることが普通のようです。 多摩丘陵は、関東平野の西南部に位置し、北は東京都とを隔てる多摩川低地を挟んで武蔵野台地に、南西部は境川を挟んで相模原台地に接し、西は高尾山東麓の八王子盆地から、 東南部は円海山周辺にかけて広がっていた広大な丘陵地帯でした。気候帯としては暖温帯に位置します。なお、円海山周辺の丘陵地は、多摩丘陵に接している三浦丘陵に含めることも多いようです。 その総面積は300kuに及び、東京都八王子市、日野市、多摩市、町田市から稲城市、神奈川県川崎市西部、横浜市北部・西南部と多くの行政区画にまたがっていました。 標高は最も高いところでも200m程度で、ほとんどが標高数十メートル以下の低い丘と、小河川などによる浸食により数百メートルにも及んで樹枝状に複雑に切れ込んだ細長い谷底型 低地(谷戸または谷津田)で形成されていました。谷戸の奥には湧水や溜池があり、よく手入れされた里山樹林地と谷戸の田畑と水路(小川)からなる豊かな自然環境を形成していました。いわゆる豊かな里山でした。 ■生き物たちの楽園だった多摩丘陵 ですから多摩丘陵は、遠い昔から生き物たちの楽園でした。明るい樹林地、草地、畑・田や水辺といった多様な自然環境に恵まれて、数百種を越える植物たちを基盤として、多くの小動物、鳥類、昆虫類たちが多様で 豊かな生態系を形成していました。 しかし、1960年代半ばから始まった開発の嵐によって、20年あまりの間に丘は削られ谷戸は埋められて市街地化し、河川・池沼改修によって水辺はコンクリートで固められ、豊かだった自然環境のおよそ90%以上が消滅して いきました。 今では環境省指定の絶滅危惧種となっている日本固有種であるトウキョウサンショウウオや多摩丘陵固有種のタマノカンアオイ(多摩の寒葵)はもとより、ホタルやメダカなどといった 水辺の生き物たちや多くの昆虫類や爬虫類・両生類、カタクリやイチリンソウなどの春の妖精と呼ばれる植物たちの多くが地域絶滅の危機に瀕するに至っています。鳥類ではキジやゴイサギなどは去り、オオルリやカシラダカなどの渡りも確認できなく なってしまっています。 ■残された多摩丘陵の自然環境はもう僅かになっています 現在、多摩丘陵の自然環境が良く残されているのは、 ・日野市七生周辺区域 ・川崎市黒川から稲城市小田良区域周辺(2010年前後から再度開発が進んでいます) ・稲城市稲城ふれあいの森 ・川崎市生田緑地 ・町田市相原中央公園(多摩丘陵北西端にあたる里山公園:2008年頃に公園化整備完了) ・町田市図師小野路歴史環境保全区域 ・町田市七国山地域 ・町田市三輪区域(2010年現在、市主導で三輪緑地開発計画が進められています) ・町田市成瀬の谷戸(市街化が進み2010年頃にはほぼ消滅) ・横浜市青葉区恩田の谷戸(民有地であり、もともと道路開設計画があります) ・横浜市青葉区寺家ふるさと村(オーバーユースにより2010年頃には一部荒廃が進行) ・横浜市都筑区都筑中央公園(市街地の中の里山公園) ・横浜市緑区新治市民の森 ・横浜市緑区の四季の森公園の保全区域 ・横浜市緑区の三保市民の森周辺 ・円海山周辺の保全区域(三浦丘陵に含めることがある) 程度になってしまいました。 これからも僅かに残されたこれらの自然環境を保全していきたいと願ってやみません。 これらの地域でも、既に多くの生物種が地域絶滅の危機に曝されています。たとえば草本類では上記の他にもクマガイソウ、エンゴサク類、サイハイラン、ウツボグサ、フデリンドウ、ホタルカズラ、ヒトリシズカ、アマナやイカリソウなど、多くの種が絶滅の淵にあります。 |